2026年8月– date –
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鑑賞ノート
省略の美学――甲賀三郎のデビュー作と、本格探偵小説が成立する条件
はじめに 1923年(大正12年)、二人の新人作家がほぼ同時に「探偵小説」というジャンルへ乗り込んできた。4月、江戸川乱歩が「新青年」に「二銭銅貨」を発表し、その4ヶ月後、甲賀三郎が「新趣味」の懸賞小説に「真珠塔の秘密」を投じ、一等入選を果たした... -
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なぜ彼はこの話をしたのか――大坪砂男『浴槽』、答えのない問いが残る20分間
列車の中で、見知らぬ青年が話しかけてくる。 彼は「面白い事件があった」と言い、温泉宿での謎の女性の死を語り始める。語り口は淀みなく、事件は事故として処理済みだという。普通ならここで終わる。 しかし相手はよりによって探偵小説家だった。 大坪砂... -
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努力では届かない場所――芥川『白』が1923年に書いた「手放すことの救済」
友達が危ない目に遭っている。助けたい。でも怖い。 その一瞬に、白は逃げた。 そしてその後の物語が始まる。芥川龍之介の短編『白』(1923年)は、ある意味でとても残酷な小説だ。主人公は正しいことをし続けても報われず、自殺を決意した夜にだけ救われ... -
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桃太郎は英雄か侵略者か――章炳麟の怒りと芥川の沈黙が生んだ短編
芥川龍之介の短編小説『桃太郎』を読んで、最初に感じたのは「これは感想を書きにくい」という戸惑いだった。 通常、小説の感想というのは「感動した」「共感した」「登場人物が好きだった」といった言葉で始まる。しかし芥川の『桃太郎』を読んで出てくる... -
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検閲が生んだ怪人――二十面相はなぜ人を殺さないのか
二十面相は人を殺さない。 刃物もピストルも使わず、血を流すことを嫌い、どれほど追い詰められても命を奪わない。これは江戸川乱歩が道徳的な理由から設定した規範ではない。国家が彼にそう書かせたのだ。 その制約の中から、日本のエンターテインメント... -
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ジャニスの「No」と、無意味だった殺人――『黒のエチュード』が問うもの
アレックス・ベネディクトは頭のいい男だった。オーケストラの指揮者として名声を持ち、権力者の娘と結婚し、ロサンゼルスの文化的エリートとして君臨していた。そして彼は、追い詰められたとき、完璧な殺人計画を立てた。 出典:seesaa.net だが最後に彼... -
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コルボマイトという存在しない武器——「謎の球体」に見るポーカーの哲学
あらすじ 出典:memory-alpha.fandom.com エンタープライズ号が未知の宙域で地図作成任務中、謎の回転する立方体に遭遇する。 立方体は通信に応じず、艦の前進を阻み続けた。新任のベイリー中尉は即座に「破壊しましょう」と進言するが、カーク船長は慎重... -
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映画を映画として見る、ということ――『ミステリー・アリーナ』を見て
お盆の忙しさがようやく落ち着いた夜、Amazonプライムを開いたら配信されていた。公開が2026年5月だから、もう3ヶ月も経っていない。思ったより早い。予告映像を見たときから気になっていた作品だったので、そのまま再生ボタンを押した。 あらすじをざっく... -
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「座頭市鉄火旅」(1967)—— 仕込み杖の寿命が問いかける、宿命と再生の物語
はじめに:シリーズ第15作の位置 1967年1月3日、正月映画として封切られた『座頭市鉄火旅』は、座頭市シリーズ第15作である。既に14本の作品で観客を魅了してきたこのシリーズは、この第15作において、極めて重要なモチーフを導入する。それが「仕込み杖の... -
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『黒手組』における「偽装誘拐」と「本物の駆け落ち」——偶然が交錯する二重構造の巧みさ
先日、江戸川乱歩の短編『黒手組』(1925年)を読み終えた。明智小五郎シリーズの初期作品の一つだが、読後、静かに考えさせられる部分が多かった。本作は一見シンプルな誘拐事件のように始まるが、実際には二つの独立した出来事が重なり合う二重構造にな...