永井荷風– tag –
明治から昭和にかけて、性急で表面的な近代化へと突き進む日本社会に背を向け、滅びゆく江戸の情緒や市井の人々の営みにレンズを向け続けた孤高の文士、永井荷風。『濹東綺譚』や『腕くらべ』といった小説群で描かれる花街の情景や日陰者の哀歓は、単なるノスタルジーや懐古趣味ではない。それは、無自覚に変わりゆく時代に対する、極めて洗練された反骨精神であり美的な抵抗(レジスタンス)であった。
彼の真骨頂は、都市を歩き、観察し、記録する「散歩者(フラヌール)」としての冷徹かつ詩的な眼差しにある。なかでも、約40年余りにわたって書き綴られた日記『断腸亭日乗』は、ひとりの知識人の内面記録であると同時に、震災や戦争を経て変容していく東京の姿を独自の視点から捉え返した、類まれなる時代証言である。
本タグでは、荷風が遺したテクストの行間から、失われた風景の匂いや当時の生々しい空気感を読み解いていく。彼が徹底した傍観者の立ち位置から何を見つめ、何を書き留めようとしたのか。その鋭利な文明批評の視座と、日本語の響きを極めた流麗な文体の妙を深く考察していく。