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鑑賞ノート
省略の美学――甲賀三郎のデビュー作と、本格探偵小説が成立する条件
はじめに 1923年(大正12年)、二人の新人作家がほぼ同時に「探偵小説」というジャンルへ乗り込んできた。4月、江戸川乱歩が「新青年」に「二銭銅貨」を発表し、その4ヶ月後、甲賀三郎が「新趣味」の懸賞小説に「真珠塔の秘密」を投じ、一等入選を果たした... -
鑑賞ノート
なぜ彼はこの話をしたのか――大坪砂男『浴槽』、答えのない問いが残る20分間
列車の中で、見知らぬ青年が話しかけてくる。 彼は「面白い事件があった」と言い、温泉宿での謎の女性の死を語り始める。語り口は淀みなく、事件は事故として処理済みだという。普通ならここで終わる。 しかし相手はよりによって探偵小説家だった。 大坪砂... -
鑑賞ノート
努力では届かない場所――芥川『白』が1923年に書いた「手放すことの救済」
友達が危ない目に遭っている。助けたい。でも怖い。 その一瞬に、白は逃げた。 そしてその後の物語が始まる。芥川龍之介の短編『白』(1923年)は、ある意味でとても残酷な小説だ。主人公は正しいことをし続けても報われず、自殺を決意した夜にだけ救われ... -
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桃太郎は英雄か侵略者か――章炳麟の怒りと芥川の沈黙が生んだ短編
芥川龍之介の短編小説『桃太郎』を読んで、最初に感じたのは「これは感想を書きにくい」という戸惑いだった。 通常、小説の感想というのは「感動した」「共感した」「登場人物が好きだった」といった言葉で始まる。しかし芥川の『桃太郎』を読んで出てくる... -
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検閲が生んだ怪人――二十面相はなぜ人を殺さないのか
二十面相は人を殺さない。 刃物もピストルも使わず、血を流すことを嫌い、どれほど追い詰められても命を奪わない。これは江戸川乱歩が道徳的な理由から設定した規範ではない。国家が彼にそう書かせたのだ。 その制約の中から、日本のエンターテインメント... -
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『黒手組』における「偽装誘拐」と「本物の駆け落ち」——偶然が交錯する二重構造の巧みさ
先日、江戸川乱歩の短編『黒手組』(1925年)を読み終えた。明智小五郎シリーズの初期作品の一つだが、読後、静かに考えさせられる部分が多かった。本作は一見シンプルな誘拐事件のように始まるが、実際には二つの独立した出来事が重なり合う二重構造にな... -
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美桜はサイコパスなのか——『レモンと殺人鬼』が描く、壊れていく人間の静かな悲しさ
「サイコパスもの」として語られることの多い小説がある。 くわがきあゆ『レモンと殺人鬼』。2023年、第21回「このミステリーがすごい!」大賞・文庫グランプリを受賞した作品だ。読了した多くの読者が口にする言葉がある。「結局サイコパスだったから、と... -
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ガラスの短刀との深謀 ── 江戸川乱歩「兇器」を読む
江戸川乱歩の短篇「兇器」は、ミステリーとしてのトリックの面白さだけでなく、人間の心の恐ろしさをじっくり描いた作品である。「ガラスで人を殺す」という、読んだあとも頭から離れない仕掛けと、そこに至るまでの女の計算された演技。この記事では、物... -
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炎跡に生まれた縁——永井荷風「にぎり飯」考察
焼け跡から始まる物語 「にぎり飯」は、昭和二十年三月九日夜半——東京大空襲の翌朝から始まる短篇小説である。荷風がこの作品を書いたのは、自らも戦火のなかを生き延びた経験を持つ晩年期のことである。 主人公は深川古石場町で荒物屋を営む佐藤という中... -
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誰にも理解されなくても、未来のために泥をかぶる。現代人に刺さる『晩秋』の教え
山本周五郎の短編小説「晩秋」は、武家社会を舞台にしながらも、人間の心の奥底にある「孤独」や「自己犠牲」、そして「許し」を深く描き出した作品です。 出典:日本の古本屋 物語は、父を理不尽に死に追いやられた娘・都留(つる)が、仇(かたき)であ...