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鑑賞ノート
草刈りの刃音と、乱歩の底知れぬ告白――『湖畔亭事件』を聴きながら
うちの墓は霊園のような共同墓地ではなく、「墓所」である。広さにして20数坪ほどある。 それだけの広さがありながら、手入れに通うのは自分ひとりだ。放っておけばあっという間に雑草に呑まれてしまうため、一年に何度も草刈りに足を運ばなければならない... -
鑑賞ノート
『人間椅子』の怖さは、確かめようのない話のほうにある
店の椅子を、お客さんにほめてもらうことがある。「いい椅子だね」と言われると、僕はいつも同じ話をする。昔、山小屋でカフェをしていた人が手作りした椅子らしい、と。 ただ、その話が本当かどうか、僕は知らない。 そういう椅子に毎日人を座らせている... -
鑑賞ノート
乱歩「双生児」――語られなかったのは、妻の気持ちだった
オーディブルで乱歩を順番に聴いている。現代ミステリーはほとんど読まないし、ビジネス書はどこかで聞いた話が半分で、あまり面白くない。結局、短い時間で聴ける昔の小説に戻ってくる。乱歩は全作品を読破するつもりでいて、「双生児」は50分足らずで終... -
鑑賞ノート
あの頃の興奮はどこへ消えたか——『少年探偵団』を読み直して
大人になって読む『怪人二十面相』 正直に言うと、面食らった。『怪人二十面相』を読み始めたとき、それまで読んでいた江戸川乱歩の小説とは明らかに毛色が違うと感じたのである。「屋根裏の散歩者」や「心理試験」のような、じっとりとした人間の暗部を覗... -
鑑賞ノート
派手な解決を拒む物語 ― 横溝正史「裏切る時計」の味わい
横溝正史の短編「裏切る時計」を読んだとき、率直に言って拍子抜けした。ミステリーを読み慣れた者にとって、結末はあまりに地味で、ほとんど救いのない形で終わってしまう。だが、そのあっけなさが、かえって新鮮に感じられたのである。 物語は、妻を殺し... -
鑑賞ノート
嘘が嘘を呼ぶとき――『恐ろしき四月馬鹿』の二重構造
悪戯のはずが、本当の事件になった M中学校の寄宿舎で、4月1日の朝に「殺人事件」が発覚する。小崎という学生の部屋は血まみれで、格闘の跡があり、遺体がない。隣室の学生は誰も物音を聞いていない。容疑者は同室の栗岡、証拠は揃っている。しかし栗岡は... -
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省略の美学――甲賀三郎のデビュー作と、本格探偵小説が成立する条件
はじめに 1923年(大正12年)、二人の新人作家がほぼ同時に「探偵小説」というジャンルへ乗り込んできた。4月、江戸川乱歩が「新青年」に「二銭銅貨」を発表し、その4ヶ月後、甲賀三郎が「新趣味」の懸賞小説に「真珠塔の秘密」を投じ、一等入選を果たした... -
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なぜ彼はこの話をしたのか――大坪砂男『浴槽』、答えのない問いが残る20分間
列車の中で、見知らぬ青年が話しかけてくる。 彼は「面白い事件があった」と言い、温泉宿での謎の女性の死を語り始める。語り口は淀みなく、事件は事故として処理済みだという。普通ならここで終わる。 しかし相手はよりによって探偵小説家だった。 大坪砂... -
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努力では届かない場所――芥川『白』が1923年に書いた「手放すことの救済」
友達が危ない目に遭っている。助けたい。でも怖い。 その一瞬に、白は逃げた。 そしてその後の物語が始まる。芥川龍之介の短編『白』(1923年)は、ある意味でとても残酷な小説だ。主人公は正しいことをし続けても報われず、自殺を決意した夜にだけ救われ... -
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桃太郎は英雄か侵略者か――章炳麟の怒りと芥川の沈黙が生んだ短編
芥川龍之介の短編小説『桃太郎』を読んで、最初に感じたのは「これは感想を書きにくい」という戸惑いだった。 通常、小説の感想というのは「感動した」「共感した」「登場人物が好きだった」といった言葉で始まる。しかし芥川の『桃太郎』を読んで出てくる...