人と動物の関係性を軸に展開する物語は、これまでも数多く生み出されてきた。しかし、2017年に放送されたドラマ「警視庁いきもの係」は、警察組織という制度化された空間に動物との共生を持ち込むことで、まったく新しい物語の地平を切り開いた作品である。
それは単なるコメディでもなく、純然たる刑事ドラマでもない。動物たちの生態が事件解決の鍵となり、人間社会の闇と光が交錯する独特の世界観を構築している。
物語は、”警視庁の鬼”と呼ばれた警部補・須藤友三(渡部篤郎)が、ある事件で頭部に銃弾を受けて記憶を失い、警視庁総務部総務課動植物管理係(通称:いきもの係)に配属されることから始まる。

復職した須藤を警視庁の同僚たちは、伝説の刑事の帰還として歓迎する。しかし、須藤自身は事件以前の記憶を失っており、自分を取り巻く人々との関係性すら把握できない状態にあった。
元相棒の石松和夫(三浦翔平)や、いきもの係の事務員である田丸弘子(浅野温子)との再会も、須藤にとっては初めての出会いのように感じられる。

そんな須藤の最初の任務は、一見些細なものであった。暴力団構成員が妻を人質に立てこもっているマンションの隣の空き地で、排水管に猫が挟まれているという通報である。
この現場で須藤は、動物マニアの新米警官・薄圭子(橋本環奈)と出会う。獣医学を専攻していた22歳の薄は、猫の救出を最優先に考え、人質事件の緊迫した空気さえも意に介さない。しかし、その純粋な動物への愛情が、意外な形で事態の打開につながっていく。

第二話以降も、様々な動物が事件解決の鍵を握る展開が続く。あるときはペンギン、またあるときはヤギやリスザル。それぞれの動物の生態や習性が、事件の真相を照らし出す重要な手がかりとなる。
特に印象的なのは、ケープペンギンが登場する回である。動物園から失踪したペンギンの行動パターンが、殺人事件の真相解明につながるという展開は、本作の特徴を端的に示している。

物語の中核を成すのは、須藤の記憶喪失という設定である。頭部に留まったままの銃弾は、常に彼の存在を脅かす影として描かれる。記憶を失ったことで、須藤は「鬼の刑事」としての過去の自分を客観的に見つめ直す機会を得る。
その過程で、薄をはじめとする新しい仲間たちとの交流を通じて、これまでとは異なる価値観に触れていく。

元相棒の石松との関係も、重要な伏線として機能している。石松は管理官の鬼頭(寺島進)から須藤の監視を命じられており、その背景には何らかの秘密が潜んでいることが示唆される。

実は須藤が撃たれた日は石松の誕生日であり、須藤は石松の好物であるたい焼きを買いに行く途中で事件に巻き込まれていた。
この真相が明かされる場面は、記憶を失った須藤の「たい焼きアレルギー」の原因を説明すると同時に、二人の絆の深さを印象づける重要な転換点となっている。

物語は、スズメバチを使用したテロ事件という大きな山場へと向かう。犯人である庄野一樹は、5年前に冤罪で逮捕された過去を持つ。その間に台風で養蜂場が全滅するという悲劇に見舞われ、それが復讐の動機となっていた。
じつはこの事件が「いきもの係」設立の契機となっていた。管理官の鬼頭は、庄野の事件への反省から、動物を保護する部署の必要性を痛感していたのである。

最終話では、庄野による警察博物館でのハチを使ったテロ計画が明らかとなる。しかし、その真の目的は鬼頭暗殺にあった。
緊迫した状況の中、須藤と薄は互いの特性を活かしながら事件解決に挑む。須藤の洞察力と薄の動物への深い理解が見事に調和し、最小限の犠牲で事態は収束する。

物語の結末で、須藤は捜査一課への復帰を打診される。これは彼にとって、かつての栄光ある地位への返り咲きを意味する。しかし須藤は、その申し出を断り、いきもの係に留まることを選択する。この決断には、記憶を失い、新たな価値観と出会うことで得られた、彼なりの答えが込められている。
薄もまた、南極観測隊をはじめとする複数の誘いを断り、いきもの係での任務を続けることを選ぶ。彼女にとって、動物たちの命を守ることは、単なる仕事以上の意味を持っている。それは彼女の存在意義そのものであり、須藤との出会いを通じて、その価値観はより確かなものとなっていったのである。

本作の魅力のひとつは、動物たちの存在が単なる小道具として扱われていないことにある。第一話で救出された猫のナオミは、その後も係のマスコット的存在として物語に登場し続ける。動物たちは、それぞれが固有の生命を持つ存在として描かれ、時に人間社会の矛盾を照らし出す鏡として機能する。

須藤と薄のやり取りも、この作品の魅力のひとつだ。年齢も経験も価値観も大きく異なる二人が、互いを理解し、成長していく過程は、本作の重要な魅力となっている。特に、薄の動物に関する豊富な知識と、一般常識の欠如という特徴は、しばしばコミカルに描かれながらも、既存の価値観を相対化する効果を持っている。

「警視庁いきもの係」は、楽しく見られる作品でありながら、ふと考えさせられるところもある。刑事ドラマと動物をめぐる物語が自然に結びつき、これまでにない面白さを生み出している。
動物たちを通して人間社会を見つめる視点も印象に残る。警察という厳しい組織の中で、命を大切にする気持ちがどう生かされるのか。本作は、そんなことをそっと考えるきっかけを与えてくれる。

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