原田眞人監督の『燃えよ剣』は、一回観ただけでは全部わからない。言葉は難しいし、話はどんどん先へ進む。
それでも観終わって最初に思ったのは「もう一回観よう」だった。わからなさが不満で終わらず、次に観る理由になる。この映画のいちばんの良さは、そこだと思っている。
原田眞人の映画は、いつも「たまたま」観ていた
もともと、この監督の映画が好きだ。木村一八の『タフ』、郷ひろみの『さらば愛しき人よ』、役所広司の『突入せよ!「あさま山荘」事件』、それから2015年の『日本のいちばん長い日』。
ただ、監督の名前で追いかけてきたわけではない。気になって観た映画の監督が、たまたまこの人だった。そういう出会い方が何度も続いた。
共通しているのは、半分ドキュメンタリーのような手触りだ。役者の演技や所作がやけにリアルで、作り物を観ている感じが薄い。泣かせにかかるわけでもなく、かといって淡々と流れていくわけでもない。その間合いがちょうどいい。
そして、どれも一回観て終わりにならなかった。何年かおきに、また観ている。
幕末を2時間半に押し込んだ早足

『燃えよ剣』は、とにかく展開が早い。上映時間は148分。土方歳三が多摩から京に上り、新選組が勢いを得て、やがて時代に押し流されていく。その激動を、立ち止まらずに一気に駆け抜ける。
台詞も容赦がない。当時の言葉や役職名が説明なしに飛び交うので、一回目は話についていくだけで手一杯だった。
ただ、置いていかれる感覚は不思議と嫌ではなかった。こちらが理解するのを待ってくれない速さが、時代に追い立てられる側の焦りと重なって見えたからだ。
殺陣の迫力と、全員の凄み
殺陣は圧巻だった。岡田准一のアクションは、刀を振る動きにも構えにも無駄がなく、見ていて素直に唸った。
岡田准一はかっこよかった。けれど、それ以上に印象に残ったのは、出てくる俳優がなんだかんだ全員かっこよかったことだ。早足の映画なので、一人ひとりの出番は長くない。それでも、短い場面で全員が凄みを残していく。
意外だったのは、ウーマンラッシュアワーの村本大輔だ。癖はある。でもその癖が浮かずに、ちゃんと幕末の人間としてそこにいた。いい演技だったと思う。

「詰め込みすぎ」は欠点なのか
この映画について、「原作を詰め込みすぎて駆け足」という声はよく目にする。早足なのは確かだし、自分もそう感じた。
ただ、それを欠点とは思わなかった。原田眞人の映画は、もともと一回で全部を飲み込ませる作りではない。説明を削って、そのぶん所作や空気で見せる。だから二回目、三回目に観たとき、一回目には見えていなかった人の動きや言葉の意味が拾えるようになる。
一回で消化しきれない密度は、何度観ても持ちこたえる密度でもある。
それでも、初見にはやさしくない
とはいえ、気軽に勧めやすい映画ではない。登場人物が多く、言葉は難しい。新選組の流れをまったく知らずに観ると、誰が誰で、なぜそうなったのかを追うだけで終わってしまうかもしれない。
一回目は、わからないところはわからないまま観る。そのくらいの構えでちょうどいい。
原田眞人監督は、2025年12月に亡くなった。気になって観た映画の監督が、いつもたまたまこの人だった。その「たまたま」が、もう新しく増えることはない。それが、ただ悲しい。
だから残された作品を、また何度でも観ようと思う。『燃えよ剣』も、いま、もう一回観ようとしている。

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