江戸川乱歩の『パノラマ島奇譚』をAudibleで聴いた。
正直に言えば、パノラマ島の描写が長すぎた。物語の続きが気になっているのに、いつまでたっても島の風景が語られる。
結局、朗読を2倍速にして聴いてしまった。それでも、この作品に対する乱歩の並々ならぬこだわりは感じられた。
物語よりも風景が中心にある
主人公の人見広介は、貧しい小説家でありながら、自分だけの理想郷を造るという途方もない夢を抱いている。
ある出来事をきっかけに大富豪の菰田源三郎になりすました広介は、その莫大な財産を使って、孤島に自分の夢を実現させようとする。
物語の出発点は面白い。
他人になりすまして大金を手に入れ、誰も見たことのない楽園を建設する。そこには犯罪があり、欲望があり、やがて破滅へと向かう運命がある。
ところが、島の完成後は様子が変わってくる。
物語がなかなか進まない。
島の内部がどのようになっているのか。どのような建造物があり、どのような景色が広がっているのか。その説明が延々と続く。
確かに、これだけ奇妙な世界を文章だけで表現するのは容易ではない。読者に見せたいものが山ほどあるのだろう。
しかし、それにしても長い。
海底トンネルから始まる人工の楽園

パノラマ島の入り口には、ガラス張りの海底トンネルが用意されている。
頭上や周囲には水の世界が広がり、さまざまな魚が泳いでいる。電灯に照らされた海中の風景を眺めながら、訪問者は現実から切り離された別世界へと進んでいく。
現在の水族館にある海底トンネルを思わせるが、この小説が発表されたのは1926年である。
当時、このような景色を文章から想像することは、今よりもずっと新鮮な体験だったのかもしれない。
しかし、今では似たような光景を映像や実際の施設で見ることができる。文章から受ける驚きも、当時の読者とは違うのだろう。
どこまでも続く人工の自然

トンネルを抜けた先には、巨大な岩壁や滝、森林などが現れる。
しかし、そこにある自然は本物の自然ではない。すべて人間の手によって造り上げられたものだ。
岩の形も、木々の配置も、水の流れも計算されている。自然の景観を再現しているようでいて、現実の自然には存在しない整い方をしている。
さらに島では、華やかな照明の下で人々が宴を繰り広げ、美女たちが人魚を思わせる姿で水の中に現れる。
まるで島全体が一つの巨大な舞台装置になっているかのようだ。
自然を造り、人を配置し、光を当てる。
ここまでくると、理想郷というより、一人の人間の頭の中をそのまま形にした世界に見えてくる。
広介が求めていたのは、自然の美しさではなく、自分の思いどおりになる美しさだったのではないか。
島の中央にそびえる大円柱

島の中央には、巨大な円柱が建設される。
その頂上には花園があり、そこからパノラマ島全体を見渡すことができる。
島の隅々まで人工的に造り込んだ広介は、その全景を一望する場所まで用意している。
考えてみれば、これは奇妙なことだ。
理想郷の中で遊ぶだけでは満足できない。自分が造った理想郷のすべてを、外側から眺める場所まで必要だったのである。
つまり広介にとって、パノラマ島は暮らすための場所というより、鑑賞するための作品だったのかもしれない。
美しいものを造りたいという欲望と、それを自分の目で確かめたいという欲望。
島の中央にそびえる円柱には、その両方が表れているように感じた。
以前、天知茂のドラマで観ていた
実は、この作品の映像化は以前に観ている。
天知茂主演の「江戸川乱歩の美女シリーズ」の一作、『天国と地獄の美女』である。美女役は叶和貴子だった。
このドラマで、パノラマ島の光景はある程度映像化されていた。
そのため、今回原作を聴いていても、島の様子を想像すること自体はそれほど難しくなかった。
もちろん、映像と文章では表現できるものが違う。
原作の描写をすべて映像にすることは難しいだろうし、文章だからこそ表現できる景観もあるはずだ。
ただ、こちらにはすでに映像の記憶がある。
ある程度のイメージが頭の中に出来上がっている状態で、長々と島の説明を聴くことになる。
これも、今回退屈に感じた理由の一つだったと思う。
Audibleを2倍速にしてしまった
今回はAudibleで聴いた。
本来なら、じっくりと朗読を味わいながら聴けばよかったのだろう。
しかし、朗読の速度が私には少し遅く感じられたこともあり、途中から2倍速にしてしまった。
紙の本なら、興味の薄い描写を少し飛ばして読むこともできる。Audibleではそういうわけにもいかない。
もちろん早送りはできるが、それでは何が描かれているのかわからなくなる。
そこで2倍速にした。
それでも、島の描写は長かった。
早く物語の続きを知りたい。しかし乱歩は、一つの風景から次の風景へと、ゆっくり読者を案内していく。
こちらが求めているものと、乱歩が見せたいものが、どうにも噛み合わない。
そんな時間が続いた。
それでも、そこまで描きたかったのだろう
この作品の物語だけを取り出してみれば、それほど長い話ではないと思う。
他人になりすまし、財産を手に入れ、理想郷を造り上げる。そして、その夢が崩壊へと向かっていく。
筋だけなら、もっと簡潔に書くこともできたはずだ。
しかし、乱歩はそうしなかった。
物語を進めることよりも、自分が想像した風景を一つ残らず描きたかったのではないだろうか。
巨大な岩壁も、人工の森林も、光に照らされた水の世界も、すべて頭の中ではっきりと出来上がっていたのかもしれない。
それを読者にも見せたかった。
だとすれば、私が退屈だと感じた長い描写こそ、乱歩が最も力を入れた部分だったことになる。
そこには、物語を面白く読ませようという意識とは別の、作家自身の欲望があったように思える。
だからといって、退屈だったという感想が変わるわけではない。
もう少し簡潔に書いてくれれば、もっと楽しめたと思う。
ただ、この長い描写を削ってしまえば、『パノラマ島奇譚』という作品そのものが、まったく違うものになってしまうのだろう。
面白かったかどうかと、作家の執念を感じたかどうかは、必ずしも同じではない。
私にとって『パノラマ島奇譚』は、物語の面白さ以上に、乱歩がこれほどまでに描きたかったものは何だったのだろう、という疑問が残る作品だった。

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