忘れられない初出場から、もう一度戻ってくる国――ボスニア・ヘルツェゴビナ代表 ワールドカップ2026出場国紹介・第6回

ワールドカップ2026出場国紹介の第6回は、ボスニア・ヘルツェゴビナ代表である。

前回からグループBに入った。第5回では、開催国のひとつであるカナダ代表を取り上げた。カナダは「勝った記憶を、これから作る国」として紹介した。過去のワールドカップではまだ勝利がなく、2026年大会で初勝利を目指す国である。

そのカナダが、グループBの初戦で対戦する相手がボスニア・ヘルツェゴビナである。

グループBは、カナダ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、カタール、スイスの4か国で構成されている。カナダは開催国として大会に臨む。カタールは前回2022年大会の開催国だった。スイスは欧州の堅実な実力国である。

その中で、ボスニア・ヘルツェゴビナは、少し独特の存在感を持っている。

まず、基本情報を整理しておきたい。

項目内容
国名ボスニア・ヘルツェゴビナ
愛称ズマイェヴィ/ドラゴンズ
2026年大会欧州予選プレーオフを突破して出場
グループB組
対戦相手カナダ、カタール、スイス
監督セルゲイ・バルバレス
W杯出場2014年、2026年
W杯最高成績グループステージ
象徴的な選手エディン・ジェコ
2014年大会での記憶初出場、そしてイラン戦でのW杯初勝利

ボスニア・ヘルツェゴビナ代表をひと言で表すなら、私は「忘れられない初出場から、もう一度戻ってくる国」と書きたくなる。

ボスニア・ヘルツェゴビナが初めてワールドカップに出場したのは、2014年ブラジル大会である。

出典:FIFA公式

2014年大会は、ブラジルで行われた。サッカーの国で行われるワールドカップで、ボスニア・ヘルツェゴビナは初めて本大会の舞台に立った。初出場国には、独特の緊張感がある。大会に慣れている国とは違い、すべてが初めてである。国歌が流れることも、世界中のテレビに映ることも、強豪国と本気で戦うことも、すべてが歴史になる。

その2014年大会で、ボスニア・ヘルツェゴビナはグループステージで敗退した。

しかし、何も残せなかったわけではない。

イラン戦で勝利を挙げ、ワールドカップ初勝利を記録した。初出場の大会で初勝利をつかんだことは、国のサッカー史にとって大きな出来事だったはずである。決勝トーナメントには届かなかった。だが、ワールドカップに出て、勝った。その事実は残った。


ボスニア・ヘルツェゴビナ代表を語るとき、どうしても名前を出したくなるのがエディン・ジェコである。

出典:フットボールチャンネル

ジェコは、この国のサッカーを象徴するストライカーである。長く欧州のトップレベルでプレーし、マンチェスター・シティ、ローマ、インテルなどでも活躍した。高さがあり、得点感覚があり、前線でチームの基準になれる選手である。

国の代表チームに、こういう選手がいることは大きい。

サッカーに詳しくない人でも、ボスニア・ヘルツェゴビナと聞いてジェコの名前を思い出す人はいるかもしれない。代表チームには、その国の顔になる選手が必要である。ブラジルならネイマール、アルゼンチンならメッシ、日本なら三笘薫や久保建英の名前が浮かぶように、ボスニア・ヘルツェゴビナにはジェコがいる。

もちろん、代表チームは一人で成り立つものではない。

けれど、ジェコの存在は、ボスニア・ヘルツェゴビナ代表の物語そのものに近い。2014年の初出場を知っている選手であり、長くこの国の攻撃を支えてきた選手である。2026年大会では年齢的にもベテラン中のベテランになるが、それでも彼の名前があるだけで、このチームには経験と重みが加わる。


もう一人、かつてのボスニア・ヘルツェゴビナ代表を語るうえで忘れられないのがミラレム・ピャニッチである。

出典:FCバルセロナ

中盤で試合を作る選手で、ユベントスやバルセロナでもプレーした。ジェコがゴールを決める選手なら、ピャニッチは試合のリズムを作る選手だった。2014年当時のボスニア・ヘルツェゴビナには、こうした世界的なクラブでプレーする選手がいて、初出場国でありながら期待を持たせるチームだった。

だからこそ、2014年のボスニア・ヘルツェゴビナは、単なる初出場国ではなかった。

「もしかしたら何かを起こすかもしれない」という雰囲気があった。

結果としてはグループステージ敗退だったが、イラン戦で勝利し、ワールドカップに国の名前を刻んだ。初めての大会で、初めての勝利。これは簡単なことではない。

そして、そこから長い時間が空いた。

2018年大会には出られなかった。2022年大会にも出られなかった。2014年の次に戻ってくるのが、2026年大会である。

12年ぶりのワールドカップである。

12年という時間は、短いようで長い。2014年に若手だった選手はベテランになり、ベテランだった選手は代表から去っている。サポーターも年を重ねる。子どもの頃に2014年大会を見た人が、2026年には大人になっている。

ワールドカップは4年ごとの大会だから、出られない時間がはっきり見えてしまう。

一度逃すと4年。二度逃すと8年。三度目でようやく戻ると12年である。ボスニア・ヘルツェゴビナにとって、2026年大会は、ただの出場ではない。2014年で止まっていたワールドカップの記憶を、もう一度動かす大会である。


監督はセルゲイ・バルバレスである。

出典:FIFA公式

バルバレスは、現役時代にボスニア・ヘルツェゴビナ代表でプレーし、ドイツでも長く活躍した人物である。つまり、外から来た監督というより、この国のサッカーを内側から知っている人物である。

代表チームにとって、これは大きい。

特にボスニア・ヘルツェゴビナのような国では、チームをまとめること、国の思いを背負うことが簡単ではないはずである。ワールドカップは単なるスポーツ大会ではない。国の名前を背負って戦う場所である。選手たちの背景も、サポーターの思いも、それぞれに深い。

バルバレス監督が率いるボスニア・ヘルツェゴビナは、2026年大会でどのようなチームになるのだろうか。

グループBの中で見ると、ボスニア・ヘルツェゴビナはかなり面白い位置にいる。

初戦はカナダである。

カナダは開催国のひとつであり、ホームの大声援を受ける。しかも、カナダはワールドカップ初勝利を目指している。つまり、カナダにとってボスニア・ヘルツェゴビナ戦は、絶対に落としたくない試合になる。

あわせて読みたい
勝った記憶を、これから作る国――カナダ代表 ワールドカップ2026出場国紹介・第5回 ワールドカップ2026出場国紹介は、ここからグループBに入る。 グループAでは、メキシコ、南アフリカ、韓国、チェコを見てきた。開催国として大会を迎えるメキシコ。2010...

しかし、ボスニア・ヘルツェゴビナにとっても、この初戦は極めて重要である。

相手は開催国だが、世界的な優勝候補ではない。勝ち点を取る可能性は十分にある。ここで負けると苦しくなるが、勝てば一気にグループ突破が見えてくる。

開催国カナダにとっての初勝利への試合。

ボスニア・ヘルツェゴビナにとっての12年ぶりの再出発。

この初戦には、かなり強い物語がある。

次に対戦するのはスイスである。

あわせて読みたい
派手ではないのに、いつもそこに残っている国――スイス代表 ワールドカップ2026出場国紹介・第8回 ワールドカップ2026出場国紹介の第8回は、スイス代表である。 これでグループBの4か国がそろう。 第5回はカナダ代表。開催国として大会を迎え、ワールドカップ初勝利を...

スイスは欧州の実力国である。派手さはあまりないかもしれないが、守備が堅く、組織が整っていて、簡単に崩れない。ワールドカップでも安定して結果を出している印象がある。ボスニア・ヘルツェゴビナにとっては、非常に難しい相手になるだろう。

ただ、同じ欧州の国であるという意味では、まったく未知の相手ではない。

欧州のサッカーは、国によってスタイルが違うとはいえ、互いに知っている部分も多い。ボスニア・ヘルツェゴビナがスイス相手にどこまで粘れるか。ここで勝ち点を拾えれば、グループBはかなり面白くなる。

最後はカタール戦である。

あわせて読みたい
開催国の悔しさを越えて、予選から戻ってくる国――カタール代表 ワールドカップ2026出場国紹介・第7回 ワールドカップ2026出場国紹介の第7回は、カタール代表である。 グループBは、カナダ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、カタール、スイスの4か国で構成されている。 第5回で...

カタールは2022年大会の開催国だった。前回大会では厳しい結果に終わったが、アジアの中では力のある国である。ボスニア・ヘルツェゴビナにとっては、グループ突破をかけた試合になる可能性もある。

グループBは、絶対的な優勝候補がいる組ではない。

だからこそ、どの国にも可能性がある。スイスが実力的には上に見られるかもしれないが、カナダにはホームの力がある。ボスニア・ヘルツェゴビナには欧州のしぶとさと経験がある。カタールも簡単には引き下がらない。

この組は、派手さよりも現実的な勝ち点争いが面白い組になると思う。

ボスニア・ヘルツェゴビナ代表の魅力は、少し説明しにくい。

ブラジルのような華やかさがあるわけではない。フランスのようにスター選手がずらりと並ぶわけでもない。カナダのように開催国としての分かりやすい期待があるわけでもない。

しかし、ボスニア・ヘルツェゴビナには、国の歴史とサッカーが近いところにあるような重みがある。

小さな国が、世界の舞台に出ていく。そこで強い相手と戦う。初出場の記憶があり、初勝利の記憶があり、長く遠ざかった時間がある。そして、もう一度戻ってくる。

こういう国を見ると、ワールドカップはやはり特別な大会だと思う。

ワールドカップは、優勝候補だけのものではない。

むしろ、ボスニア・ヘルツェゴビナのような国が出てくることで、大会の幅が広がる。国の名前を聞いただけでは強さが分からない。でも、少し調べると、ジェコがいて、ピャニッチがいて、2014年の初出場があり、イラン戦の初勝利があり、12年ぶりの復帰がある。

そういうものを知ると、試合の見え方が変わる。

カナダ対ボスニア・ヘルツェゴビナという試合も、ただのグループB第1戦ではなくなる。

カナダは初勝利を目指す開催国。

ボスニア・ヘルツェゴビナは、12年ぶりに戻ってきた国。

どちらも、ワールドカップでまだ決勝トーナメントに進んだことがない。どちらも、この大会で新しいページを開こうとしている。

その二つの国が、初戦でぶつかる。

これは面白い。

ボスニア・ヘルツェゴビナ代表にとって、2026年大会は何を意味するのだろうか。

ジェコの世代が残した記憶を、次の世代が受け継ぐ大会かもしれない。2014年の初出場を、ただの過去の思い出で終わらせない大会かもしれない。あるいは、この国がワールドカップで初めてグループステージの向こう側へ行く大会になるかもしれない。

もちろん、簡単ではない。

グループBにはスイスがいる。開催国カナダがいる。カタールもいる。どの試合も難しい。ボスニア・ヘルツェゴビナが突破するには、初戦から勝ち点を取り、少ないチャンスを確実にものにしなければならない。

だが、そういう戦い方は、この国に合っているようにも思う。

派手ではない。けれど、しぶとい。

大国ではない。けれど、忘れられない選手を生んできた。

長くワールドカップから離れていた。けれど、もう一度戻ってきた。

ボスニア・ヘルツェゴビナ代表は、2026年大会でどんな姿を見せるのだろうか。

出典:サッカーダイジェストWeb

カナダとの初戦を見るとき、2014年の初出場と初勝利を少し思い出しておきたい。そして、ジェコという長い時間を背負ったストライカーがいることも、頭の片隅に置いておきたい。

忘れられない初出場から、もう一度戻ってくる国。

ボスニア・ヘルツェゴビナの2026年は、過去の記憶を未来につなげる大会になるのかもしれない。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次