88年ぶりの扉、スイスが静かに開いた

決勝トーナメントには、劇的な逆転もあれば、PK戦の残酷さもある。

だが、すべての勝利が派手な音を立てるわけではない。
静かに試合を支配し、相手の勢いを受け止め、必要な時間に点を取り、最後まで崩れずに勝つ。そういう勝利も、決勝トーナメントでは同じように重い。

スイス対アルジェリアは、そういう試合だった。

結果は、スイス 2-0 アルジェリア。
スイスが勝ち抜き、ラウンド16へ進んだ。

出典:Yahoo!ニュース – Yahoo! JAPAN

この勝利には、数字以上の意味がある。スイスにとって、ワールドカップの決勝トーナメントで勝つのは1938年以来だと報じられている。88年ぶりである。88年という時間は、サッカーの歴史ではほとんど別の時代である。選手も、監督も、観客も、スタジアムも、テレビ中継の形も、すべてが変わっている。

それでも、国の記憶として「決勝トーナメントで勝てない」という感覚は残る。

スイスは近年、いつも堅実なチームだった。
グループリーグを抜ける力はある。強豪国相手にも粘れる。だが、決勝トーナメントに入ると、あと一歩が届かなかった。2006年、2014年、2018年、2022年と、ラウンド16で止まってきた。

その扉を、この試合でようやく開いた。

試合の入りは、スイスにとって理想的だった。

10分、ブレール・エンボロが先制点を決める。
若いヨハン・マンザンビが流れを作り、エンボロが仕上げた。早い時間の1点は、決勝トーナメントでは大きい。相手に追う展開を強いるだけでなく、自分たちの試合の形をはっきりさせることができる。

スイスは、まさにその形に試合を持ち込んだ。

無理に華やかな攻撃を続けるのではない。
守るべきところを守り、相手が前に出てきたところを狙う。
中盤ではグラニト・ジャカとレモ・フロイラーが落ち着きを与え、チーム全体が簡単には揺れなかった。

アルジェリアにとっては、難しい試合になった。

グループJを3位で通過してきたアルジェリアは、アルゼンチン、オーストリア、ヨルダンと同じ組を戦い抜き、決勝トーナメントへたどり着いた。3位通過という立場ではあったが、ここに来た以上、勝つ可能性はあったはずである。

しかし、早い失点が重くのしかかった。

追いかけなければならない。
だが、前に出ればスイスのカウンターがある。
焦れば、さらにスペースを与える。

そういう苦しい構図の中で、アルジェリアはなかなか決定的な形を作れなかった。

前半終了間際には、アルジェリアにもチャンスがあったと報じられている。あそこで追いついていれば、試合の空気はまったく違ったものになっていただろう。1-1で後半に入れば、スイスにも迷いが出たかもしれない。アルジェリアにも、もう一度勢いが戻ったかもしれない。

だが、ゴールは生まれなかった。

決勝トーナメントでは、こういう場面があとから大きく見える。
入っていれば、という一瞬。
届いていれば、という一歩。
その差が、次へ進む国と去る国を分ける。

後半に入ると、スイスがさらに突き放した。

ダン・エンドイが追加点を決める。
これで2-0。

この2点目は、試合を大きくスイス側へ傾けた。1点差なら、まだアルジェリアにも終盤の希望がある。だが、2点差になると、追う側はリスクを背負わざるを得ない。前へ出れば出るほど、後ろには隙が生まれる。スイスは、その状況をよく分かっていたように見えた。

この日のスイスは、派手に相手を圧倒したというより、相手に希望を持たせる時間を少しずつ削っていった。

時計が進む。
アルジェリアが攻める。
スイスが受け止める。
そして、また時間が過ぎる。

見ている側からすると、スイスの試合運びには静かな強さがあった。慌てない。崩れない。無理をしない。相手が前へ出てくるほど、むしろスイスの輪郭がはっきりしていく。

アルジェリアには、リヤド・マフレズがいた。

長く代表を支えてきた選手である。左足の技術、経験、大舞台を知る落ち着き。アルジェリアにとって、マフレズは単なる一選手ではなかったはずである。報道では、この試合が彼にとって代表最後の試合になると伝えられている。

そう考えると、アルジェリアの敗退には、ひとつの時代の終わりのような寂しさもある。

0-2で敗れた。
ゴールは奪えなかった。
決勝トーナメントはここで終わった。

だが、アルジェリアの大会を軽く扱うことはできない。グループを3位で抜け、決勝トーナメントまで来た。強い相手に苦しみながらも、最後までゴールを目指した。結果としてスイスの壁を破れなかったが、そこまで歩いてきた時間は残る。

負けた国には、負けた国の去り際がある。

悔しさを抱えながらピッチを去る選手。
最後まで声を出すサポーター。
代表での時間を終えるかもしれないベテラン。

そのすべてが、スコアの中には収まりきらない。

一方で、スイスは次へ進む。

次の相手は、コロンビア対ガーナの勝者である。
どちらが来ても簡単ではない。だが、スイスはこの試合で大きな重さをひとつ下ろした。88年ぶりの決勝トーナメント勝利。その事実は、次の試合へ向かうチームに少し違う空気を与えるはずである。

もちろん、ここで満足している場合ではない。
ラウンド16へ進んだだけで、ワールドカップは終わらない。むしろ、ここからまた新しい壁が現れる。

それでも、この勝利には意味がある。

エンボロが早い時間に決めた。
エンドイが後半に突き放した。
ジャカを中心に、チームは最後まで崩れなかった。
そして、長く閉じていた扉が開いた。

スイスの勝利は、派手な逆転劇ではなかった。
だが、決勝トーナメントで本当に強いのは、こういう試合を落ち着いて勝てる国なのかもしれない。

アルジェリアは去る。
スイスは進む。

2-0という数字の奥に、88年ぶりの解放感と、届かなかった国の静かな悔しさが並んでいる。

この夜、スイスは大きな声で叫ぶというより、深く息を吐くように次の扉を開いた。

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