決勝トーナメントでは、苦しみながら勝つ国がある。
延長にもつれ、PK戦でようやく扉を開ける国がある。終盤に追いつき、最後の最後に試合をひっくり返す国もある。ここまでの試合でも、ドイツがPK戦で敗れ、オランダが土壇場で追いつかれて去り、ベルギーは敗退寸前から戻ってきた。
だが、スペイン対オーストリアは違った。
結果は、スペイン 3-0 オーストリア。
スペインが危なげなく勝ち抜き、ラウンド16へ進んだ。
スコアだけを見ると、淡々とした勝利である。
しかし、決勝トーナメントで3-0という数字を残すことは、簡単ではない。相手はグループJを2位で突破してきたオーストリアである。アルゼンチンのいる組を戦い、ヨルダンを下し、決勝トーナメントまで来た。勢いだけでここに立っていたわけではない。
それでも、この日のスペインは強かった。
出典:FIFA公式
グループリーグでは、スペインにも少し不安があった。カーボベルデとの0-0は、強豪国としては物足りない結果だったかもしれない。だが、そこから勝ち点を積み上げ、グループHを首位で突破した。派手さだけではなく、失点しないことで大会を進めてきた。
そして決勝トーナメントに入っても、その堅さは崩れなかった。
スペインは今大会、まだ失点していない。
これは大きい。
ワールドカップでは、攻撃の華やかさに目が行く。ゴールを決めた選手の名前が残り、決定的なパスやシュートが語られる。だが、勝ち上がる国には必ず守備の静かな土台がある。相手に流れを渡さない。焦っても崩れない。危ない時間を最小限に抑える。そういう試合運びが、この日のスペインにはあった。
試合を動かしたのは、36分だった。
ミケル・オヤルサバルが先制点を決める。
左からの低いボールに合わせ、スペインが前半のうちに扉を開いた。
決勝トーナメントの先制点は、いつも重い。特にスペインのようにボールを持つチームが先に点を取ると、相手はさらに難しくなる。オーストリアは追いかけなければならない。だが、前に出れば、スペインのパスと動きに空いた場所を使われる。
1点を取ったことで、スペインは試合をより自分たちの形に近づけた。
オーストリアは、何もできなかったわけではない。
ラルフ・ラングニックのチームらしく、前へ出ようとする姿勢はあった。サビッツァー、ライマー、アラバといった経験ある選手もいる。61分にはサシャ・カライジッチのヘディングがあったと報じられている。だが、最後のところでスペインの守備とGKウナイ・シモンを破れなかった。
そして66分、スペインが突き放す。
ペドロ・ポロが決めた。
これで2-0。
この2点目は、試合の意味を大きく変えた。1点差なら、まだ終盤に何かが起こる。オーストリアにも、同点へ向かう道が残っている。だが、2点差になると、その道は一気に細くなる。決勝トーナメントの後半で2点を追うのは、ただ攻めればいいというものではない。前に出れば、さらに失点の危険が増える。
スペインは、その状況を落ち着いて管理した。
ボールを動かし、時間を使い、相手に無理をさせる。
スペインらしい勝ち方である。
もちろん、昔のスペインと今のスペインは同じではない。2010年に世界を制したチームとは、選手も時代も違う。だが、ボールを大事にし、試合を少しずつ自分たちの方へ引き寄せる感覚には、やはりスペインらしさが残っている。
そのスペインが、ワールドカップの決勝トーナメントで勝った。
APは、この勝利をスペインにとって2010年の優勝大会以来となるワールドカップ決勝トーナメントでの勝利と伝えている。強豪国でありながら、ワールドカップのノックアウトでは長く届かなかった一勝である。そう考えると、この3-0は単なる快勝以上の意味を持つ。
89分、オヤルサバルがもう一度決めた。
3-0。
試合は完全に決まった。
オヤルサバルはこの2得点で、今大会4得点となったと報じられている。エムバペやハーランドのような名前に比べると、派手に語られる機会は少ないかもしれない。だが、必要な場所に入り、必要な時間に決める。決勝トーナメントでは、そういう選手の価値が非常に大きい。
一方で、オーストリアの大会はここで終わった。
0-3というスコアは重い。
先に失点し、後半に突き放され、最後にもう一つ失った。反撃の糸口をつかみきれないまま、スペインの強さの前で大会を閉じることになった。
だが、オーストリアを簡単に責める気にはなれない。
このチームはグループを突破し、決勝トーナメントの舞台に立った。アルゼンチン、アルジェリア、ヨルダンと同じ組を戦い、2位で進んできた。ここに来るまでの道は、決して平坦ではなかったはずである。
そして最後に、スペインと戦った。
相手が強かった。
それは言い訳ではなく、事実に近い。
もちろん、選手たちは悔しいだろう。もっとボールを奪いたかったはずである。もっとゴールに近づきたかったはずである。アラバのような経験ある選手にとっても、この敗退は重いものだっただろう。ワールドカップの決勝トーナメントで敗れるというのは、どの国にとっても簡単に飲み込めるものではない。
それでも、ここまで来た事実は残る。
敗れた国の物語は、そこで終わる。
だが、その国が歩いてきた時間まで消えるわけではない。
スペインは次に、ポルトガル対クロアチアの勝者と対戦する。
どちらが来ても、かなり重い試合になる。ポルトガルならイベリアの対決であり、クロアチアなら大舞台の粘りを知る国である。3-0で勝ったからといって、次も簡単になるわけではない。むしろ、ここからが本当の強度になる。
それでも、この日のスペインには、静かな説得力があった。
オヤルサバルが決めた。
ポロが決めた。
守備はまた無失点だった。
そして、2010年以来という言葉の重さを越えて、ワールドカップの決勝トーナメントで一つ勝った。
勝者の歓喜は、爆発的というより、確かな手応えに近かったかもしれない。
敗れたオーストリアの去り際には、届かなかった悔しさがあったはずである。
3-0という数字の奥に、スペインの完成度と、オーストリアの終わった夏が並んでいる。
決勝トーナメントは、また一つ扉を閉じ、また一つ扉を開いた。
この夜、次へ進んだのはスペインだった。


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