開催国の試合には、独特の重みがある。
ただ勝つだけではない。
国の期待、スタジアムの熱、過去から続く記憶まで背負ってピッチに立つ。選手たちの足元には芝生があり、頭上には照明がある。だが、その周りには、何万人もの願いが渦巻いている。
メキシコ対エクアドルは、まさにそういう試合だった。
結果は、メキシコ 2-0 エクアドル。
メキシコが勝ち抜き、ラウンド16へ進んだ。
スコアだけを見ると、きれいな勝利である。
2点を取り、失点はゼロ。決勝トーナメントでこれ以上ないほど落ち着いた結果に見える。だが、この勝利には、数字以上の意味があった。
メキシコにとって、ワールドカップの決勝トーナメントで勝つことは、長く届きそうで届かない扉だった。何度もベスト16に進みながら、そこで止まってきた。あと一歩、もう一つの試合、いわゆる「5試合目」へ進むことができない。その記憶は、メキシコサッカーにとって重いものだったはずである。
今回、その扉を地元で開いた。
舞台はアステカ・スタジアム。
メキシコのサッカーにとって、特別な場所である。
試合前には雷雨による遅延もあった。待たされる時間は、観客にとっても選手にとっても、簡単ではない。高ぶった気持ちが一度宙に浮き、いつ始まるのかという落ち着かない時間が流れる。だが、試合が始まると、その待たされた熱は一気にピッチへ注がれたのだろう。
メキシコは前半から動いた。
フリアン・キニョネスが先制点を決める。
地元の大歓声の中で、メキシコが先にスコアを動かした。
出典:東京新聞
決勝トーナメントの先制点は大きい。
しかも、地元開催である。先に取れば、スタジアムが味方になる。相手にとっては、11人だけではなく、客席全体と戦っているような感覚になる。
エクアドルにとっては、苦しい入りだった。
グループEを3位で突破してきたエクアドルは、ドイツ、コートジボワール、キュラソーと戦い、そこから決勝トーナメントへたどり着いた。南米のチームらしい強度と粘りを持ち、簡単に崩れる相手ではない。だからこそ、メキシコにとっても先制点は大きかった。
そして前半のうちに、さらに試合は動く。
ラウル・ヒメネスが追加点を決めた。
これで2-0。
アステカの空気は、もう完全にメキシコのものになったはずである。前半で2点のリードを奪う。しかも決勝トーナメントである。メキシコの選手たちは、ただ勢いに乗るだけではなく、このまま勝ち切らなければならないという別の重みも背負った。
ここからの試合運びが、むしろ難しい。
2-0は安全なようで、決して安全ではない。
1点を返されれば、一気に空気は変わる。エクアドルが前に出てくれば、試合は荒れる。大歓声は味方にもなるが、焦りを生むこともある。
だが、この日のメキシコは崩れなかった。
守備は最後まで集中していた。
エクアドルに反撃の時間を与えながらも、ゴールだけは許さなかった。今大会、メキシコはここまで無失点を続けていると報じられている。派手な攻撃だけでなく、失点しない強さがある。地元の熱に乗りながらも、浮ついていなかった。
この試合で印象的だったのは、若いジルベルト・モラの存在でもある。
17歳のモラは、この決勝トーナメントの試合に先発し、ペレ以来となる若さでのワールドカップ決勝トーナメント先発出場として伝えられている。若い選手が、満員のアステカで、国の期待を背負う試合に立つ。その緊張は想像しきれない。だが、その姿がメキシコの未来を少し明るく見せたことは確かである。
メキシコは、過去の重さと未来の光を同時に抱えながら勝った。
出典:FOOTBALL ZONE
こういう勝利は、国に残る。
ただの2-0ではない。
ただの決勝トーナメント1回戦突破でもない。
1986年以来の決勝トーナメント勝利という言葉には、長い時間が詰まっている。何度も跳ね返され、何度も悔しい思いをしてきた。その記憶を知る人にとって、この勝利はようやく開いた扉のように見えたはずである。
一方で、エクアドルはここで大会を去る。
0-2という敗戦は悔しい。
先に失点し、前半のうちに2点目を許した。後半に反撃しようとしても、メキシコの守備を破れなかった。決勝トーナメントでは、こういう前半の重さが最後まで響く。
だが、エクアドルの大会を簡単に失敗とは言いたくない。
グループを突破し、決勝トーナメントまで来た。南米予選をくぐり抜け、ワールドカップ本大会で戦い、最後は開催国メキシコとアステカで向き合った。相手の熱量はすさまじかっただろう。その中で敗れたことは苦いが、そこまで来た道まで消えるわけではない。
サッカーでは、負けた瞬間にすべてが止まるように見える。
だが、選手たちが走った時間、守った時間、追いかけた時間は残る。
エクアドルにも、それはあった。
メキシコは次に、イングランド対コンゴ民主共和国の勝者と対戦する。
どちらが来ても、簡単ではない。
だが、メキシコはもう一つ大きな壁を越えた。地元で決勝トーナメントを勝ち、長く言われてきた呪縛のようなものを振り払った。ここから先は、さらに重い試合になる。だが、その重さを背負う資格を、メキシコはこの夜につかんだ。
アステカに響いた歓声は、ただの勝利の歓声ではなかった。
長く閉じていた扉が開いた音でもあった。
キニョネスとヒメネスのゴール。
無失点での勝利。
若いモラの登場。
そして、敗れて去るエクアドルの静かな背中。
決勝トーナメントは、勝者だけを次へ進ませる。
だが、その一試合の中には、勝った国の解放感と、敗れた国の悔しさが同時に刻まれる。
この夜、前へ進んだのはメキシコだった。
アステカの熱を背に、メキシコの物語はもう一試合続く。



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