グループGの最初は、ベルギー代表を見てきた。
黄金世代の余韻を残しながら、赤い悪魔がもう一度立ち上がろうとしている。
2018年の輝き、2022年の失意、そして2026年の再出発。
ベルギー代表には、強豪でありながら少し切ない物語があった。
そのベルギーと同じグループGに入ったのが、エジプト代表である。
エジプトと聞くと、サッカーより先に、ピラミッド、ナイル川、ファラオ、砂漠、古代文明のイメージが浮かぶ人も多いだろう。世界史の教科書の中にある国であり、観光地としてもあまりに有名な国である。
だが、アフリカサッカーの歴史において、エジプトは特別な存在である。
エジプトは、アフリカ勢として初めてワールドカップに出場した国である。
そして、アフリカネーションズカップでは最多優勝を誇る国でもある。
代表チームの愛称は「ファラオ」。
この名は、エジプトという国の歴史の深さをそのまま背負っているように聞こえる。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 国名 | エジプト |
| 代表チームの愛称 | ファラオ |
| 大陸連盟 | CAF |
| ワールドカップ出場 | 4回目 |
| 初出場 | 1934年イタリア大会 |
| 最高成績 | グループステージ |
| 直近の出場 | 2018年ロシア大会 |
| 2022年カタール大会 | 予選敗退 |
| 監督 | ホッサム・ハッサン |
| 主将 | モハメド・サラー |
| グループGの相手 | ベルギー、イラン、ニュージーランド |
アフリカ勢として初めて世界へ出た国
エジプト代表を語る時、まず1934年イタリア大会に触れなければならない。
この大会で、エジプトはアフリカ勢として初めてワールドカップに出場した。
今ではアフリカの国々がワールドカップで勝ち上がることは珍しくなくなった。カメルーン、ナイジェリア、セネガル、ガーナ、モロッコ。いくつもの国が世界の舞台で記憶に残る試合をしてきた。
しかし、その最初の入口にいたのがエジプトである。
1934年という時代を考えると、その意味は大きい。
まだワールドカップ自体が始まって間もない時代であり、世界中のサッカーが今のようにつながっていたわけでもない。そんな時代に、エジプトはアフリカ代表として世界の大会に立った。
結果として、大きな勝ち上がりを見せたわけではない。
だが、歴史の最初に名前を刻んだということは、それだけで重い。
エジプト代表には、古豪という言葉が似合う。
ただし、それは昔強かっただけの国という意味ではない。アフリカサッカーの扉を、最初に開いた国の一つという意味である。
アフリカ王者としての重み
エジプトは、ワールドカップではまだ大きな成績を残していない。
出場回数は多くない。
そして、これまで決勝トーナメントに進んだこともない。
しかし、アフリカの中では事情が違う。
エジプトは、アフリカネーションズカップで何度も頂点に立ってきた国である。
アフリカ大陸内では、長い歴史と誇りを持つ強豪である。
この差が、エジプト代表の不思議なところだ。
アフリカでは王者の記憶を持つ。
だが、ワールドカップではまだ世界に大きな結果を残せていない。
大陸の中では強い。
しかし、世界の大会になると壁がある。
この構図は、日本代表にも少し通じる。日本もアジアでは強豪であり、ワールドカップには連続して出場しているが、まだベスト8には届いていない。エジプトにとっても、ワールドカップで次の扉を開くことは長年の課題である。
1990年、長い空白の後の復帰
出典:FIFA公式
エジプトが次にワールドカップへ出場したのは、1990年イタリア大会だった。
1934年から1990年まで、実に長い空白があった。
アフリカの名門でありながら、ワールドカップにはなかなか戻れなかったのである。
この大会でエジプトは、オランダ、イングランド、アイルランドと同じグループに入った。
いずれも簡単な相手ではなかった。
結果として、エジプトはグループステージで敗退した。
だが、守備の堅さを見せ、簡単には崩れないチームという印象を残した。
ワールドカップに出ること自体が難しい時代があった。
そこに戻ってくるまでに、エジプトには長い時間が必要だった。
この「戻ってくるまでの時間」もまた、エジプト代表の物語の一部である。
2018年、サラーとともに戻った舞台
出典:AFPBB News
エジプト代表の近年の記憶として、最も大きいのは2018年ロシア大会だろう。
この大会で、エジプトは28年ぶりにワールドカップへ戻ってきた。
その中心にいたのが、モハメド・サラーである。
サラーは、リバプールで世界的なスターになった。
スピード、決定力、左足、そして穏やかな表情の奥にある強い意志。
世界中のサッカーファンが知る選手であり、エジプトにとっては国民的英雄である。
2018年大会の前、サラーはクラブで負傷した。
それでも、エジプト中が彼の回復を待った。
ワールドカップにサラーがいるかどうか。
それだけで、国の期待の形が変わるほどの存在だった。
エジプトはグループステージで敗退した。
サラーも得点を挙げたが、チームとして勝ち上がることはできなかった。
出典:FIFA公式
それでも、2018年大会はエジプトにとって特別だった。
長い空白を越え、サラーという象徴とともに、再び世界の舞台に立った大会だったからである。
2022年に届かなかった悔しさ
2022年カタール大会に、エジプトの姿はなかった。
アフリカ予選の最後でセネガルに敗れ、本大会出場を逃した。
サラーとセネガルのサディオ・マネ。
リバプールでともに戦った二人が、代表ではワールドカップ出場をかけてぶつかったことも、大きな物語になった。
結果は、エジプトにとって悔しいものだった。
サラーのワールドカップは、2018年だけで終わってしまうのか。
そんな空気もあった。
世界的な選手でありながら、ワールドカップで十分な物語を残せない選手がいる。
それはサッカーでは珍しいことではない。
クラブでどれだけ輝いても、代表の大会では環境も相手も違う。国の力、世代の巡り合わせ、予選の厳しさがある。
サラーほどの選手でも、ワールドカップは簡単には手に入らない。
だからこそ、2026年大会のエジプトには、特別な意味がある。
ホッサム・ハッサンが率いるファラオ
出典:FIFA公式
2026年大会でエジプト代表を率いるのは、ホッサム・ハッサンである。
エジプトサッカーを語る上で、非常に大きな名前である。
現役時代はストライカーとして長く代表を支え、国の英雄的存在だった人物だ。
そのホッサム・ハッサンが、今度は監督としてエジプトをワールドカップへ導く。
これは、ただの監督交代ではない。
エジプトサッカーの記憶そのものが、現在の代表につながっているようにも見える。
選手として国を背負った人が、監督として再び国を背負う。
そこには、代表サッカーならではの時間の重なりがある。
CAFの記事でも、ホッサム・ハッサンはエジプトサッカー史の象徴的存在として紹介され、2026年大会に向けて、世界の強豪と戦える競争力あるチーム作りを重視しているとされている。
サラーがピッチで背負うもの。
ホッサム・ハッサンがベンチで背負うもの。
その二つが重なるのが、2026年のエジプト代表である。
サラーの存在と、次の世代
出典:FOOTBALL ZONE
エジプト代表を語ると、どうしてもサラーの名前が大きくなる。
それは当然である。
彼は世界的スターであり、エジプトの象徴であり、今の代表の中心である。
だが、エジプトはサラーだけのチームではない。
オマル・マルムーシュのように欧州で存在感を高めている選手もいる。
モハメド・エルシェナウィのような経験ある選手もいる。
国内リーグで戦ってきた選手たちも、代表の土台を支えている。
さらに、若い世代への期待もある。
CAFは、2026年大会に向けた予備登録メンバーの中で、若い攻撃的選手の選出が話題になったと伝えている。サラーという大きな柱がありながら、その後ろに次の世代が育ちつつある。
とはいえ、世界の目はやはりサラーに向くだろう。
2026年大会は、サラーにとってワールドカップで大きな足跡を残す最後の機会になるかもしれない。
もちろん、将来のことは誰にもわからない。だが、年齢を考えれば、今回の大会にかける思いは強いはずである。
リバプールで数々の記憶を残した選手が、エジプト代表としてワールドカップで何を残すのか。
それは、今回の大会の大きな見どころである。
グループGで待つベルギー、イラン、ニュージーランド
エジプトが入ったグループGには、ベルギー、イラン、ニュージーランドがいる。
ベルギーは、グループの中心と見られる国である。
黄金世代の余韻を残しながら、デ・ブライネ、ルカク、クルトワ、ティーレマンスらを軸に再出発を目指している。エジプトにとっては、初戦から非常に大きな相手になる。

ただし、エジプトにもサラーがいる。
ベルギーにとっても、サラーを自由にさせることは危険である。
一瞬の抜け出し、一つの左足、一度のカウンターで試合を変えられる選手だからだ。
イランは、アジアの強豪である。
守備が堅く、国際大会の経験も多い。エジプトにとっては、勝ち点を計算したい相手であると同時に、簡単には崩せない相手でもある。

ニュージーランドは、グループの中では挑戦者の立場かもしれない。
だが、ワールドカップでは油断できない。体格があり、粘り強く、セットプレーも怖い。エジプトが決勝トーナメントを目指すなら、こうした試合で確実に勝ち点を取る必要がある。

グループGは、ベルギーが一歩前にいるように見える。
だが、残りの3チームには十分にチャンスがある。
エジプトにとって、これは大きな機会である。
初めて決勝トーナメントへ進むための現実的な道が、そこにある。
ファラオが越えたい一線
エジプト代表は、アフリカサッカーの歴史を背負う国である。
1934年にアフリカ勢として初めてワールドカップへ出た。
アフリカネーションズカップでは何度も頂点に立った。
サラーという世界的スターを生んだ。
それでも、ワールドカップではまだグループステージを越えていない。
この「まだ」が、エジプト代表の2026年大会を特別なものにしている。
サラーにとっても、ホッサム・ハッサンにとっても、エジプトのサポーターにとっても、今回の大会は単なる出場では終われないはずである。
もちろん、簡単ではない。
ベルギーは強い。
イランはしぶとい。
ニュージーランドも侮れない。
ワールドカップで一つ勝つこと、さらに勝ち上がることは、どの国にとっても難しい。
それでも、エジプトには期待したくなる。
ナイルの国から、ファラオが北米のピッチへ向かう。
古い歴史を背負いながら、サラーの左足が新しい記憶を刻もうとしている。
エジプト代表は、まだワールドカップで大きな扉を開いていない。
2026年、その扉の前に再び立つ。
ファラオの記憶と、サラーの夢がどこまで届くのか。
グループGの戦いを、静かに見届けたい。






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