グループFでは、オランダ、日本、スウェーデン、チュニジアを見てきた。
オランダは、準優勝3回の歴史を背負うオレンジ軍団。
日本は、ベスト16の壁を越えようとする青のチーム。
スウェーデンは、北欧の記憶と静かな反撃を抱えた国。
チュニジアは、カルタゴの鷲として、まだ越えていない一線に挑む国であった。
ここからシリーズは、グループGへ移る。
最初に登場するのは、ベルギー代表である。
ベルギーと聞くと、チョコレート、ビール、ワッフル、そしてヨーロッパの小さな国という印象がある。だが、サッカーにおいては、ここ十数年、世界の中心に近い場所にいた国である。
その愛称は「赤い悪魔」。
この呼び名は、なかなか強い。
ただ怖いだけではない。
赤いユニフォーム、鋭い攻撃、豊かな才能、そしてどこか燃え尽きなかった物語。
ベルギー代表には、そんな印象がある。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 国名 | ベルギー |
| 代表チームの愛称 | 赤い悪魔 |
| 大陸連盟 | UEFA |
| ワールドカップ出場 | 15回目 |
| 初出場 | 1930年ウルグアイ大会 |
| 最高成績 | 3位(2018年) |
| 2022年カタール大会 | グループステージ敗退 |
| 2026年大会予選 | 欧州予選グループJを首位通過 |
| 監督 | ルディ・ガルシア |
| 主将 | ユーリ・ティーレマンス |
| グループGの相手 | エジプト、イラン、ニュージーランド |
小国という言葉では収まらないサッカー国
ベルギーは、国土の大きさで見れば決して大国ではない。
フランス、ドイツ、オランダに囲まれたヨーロッパの小さな国である。言語も一つではない。オランダ語圏、フランス語圏、ドイツ語圏があり、地域ごとの文化も違う。そう考えると、一つの代表チームとしてまとまること自体にも、独特の難しさがあるのかもしれない。
しかし、サッカーの世界でベルギーは、長く存在感を示してきた。
初めてワールドカップに出場したのは1930年の第1回大会である。そこから何度も本大会に出場し、1986年メキシコ大会では4位に入った。そして2018年ロシア大会では、ついに3位まで進んだ。
ワールドカップ優勝国ではない。
だが、ベルギーは「勝てそうだった国」として、強く記憶に残っている。
この「勝てそうだった」という感覚が、ベルギー代表の物語を少し切ないものにしている。
黄金世代という眩しい時間
出典:ABEMA TIMES
近年のベルギー代表を語る時、「黄金世代」という言葉は避けて通れない。
エデン・アザール。
ケヴィン・デ・ブライネ。
ロメル・ルカク。
ティボー・クルトワ。
ヴァンサン・コンパニ。
ヤン・フェルトンゲン。
トビー・アルデルヴァイレルト。
アクセル・ヴィツェル。
ドリース・メルテンス。
名前を並べるだけで、すごい時代だったことがわかる。
前線には個人で違いを作れる選手がいた。
中盤には試合を動かせる選手がいた。
守備には経験と強さがあり、ゴールには世界屈指の守護神がいた。
これほどの選手たちが、同じ時代にベルギー代表に集まった。
だからこそ、世界は期待した。
このチームなら、ワールドカップを獲るかもしれない。
少なくとも、決勝まで行くのではないか。
そう思わせるだけの力があった。
だが、代表サッカーは、名前の豪華さだけでは完成しない。
大会の流れ、相手との相性、コンディション、ほんの一瞬の判断。いくつもの要素が重なり合う。
出典:FIFA公式
黄金世代は、眩しかった。
しかし、その眩しさは、最後に金色のトロフィーには届かなかった。
2018年、日本戦からブラジル戦へ
ベルギー代表の記憶として、日本の読者にとって最も忘れにくいのは、2018年ロシア大会の日本戦だろう。
決勝トーナメント1回戦。
日本はベルギーを相手に、後半に2点を先に取った。
あの時、日本がベスト8に近づいたと思った人は多いはずである。
私も、あの試合の空気は今でもよく覚えている。
これは本当に行けるのではないか。
日本が、ワールドカップで新しい景色を見るのではないか。
しかし、ベルギーはそこから追いついた。
そして最後の最後、カウンターで逆転した。
日本にとっては、あまりにも痛い敗戦だった。
だが、ベルギー側から見れば、あれは黄金世代の底力を示した試合でもあった。
ただ強いだけではない。
追い込まれても崩れない。
試合の最後に、あれだけ美しい速攻を出せる。
あの瞬間に、ベルギーの才能と勝負強さが凝縮されていた。
出典:BBC
続く準々決勝では、ブラジルを2-1で破った。
これは大きな勝利だった。
ブラジルを倒して、ベルギーは準決勝へ進んだ。
世界一まで、本当にあと少しだった。
3位という成果と、届かなかった頂点
2018年ロシア大会で、ベルギーは3位になった。
これはベルギー代表にとって、ワールドカップ最高成績である。
準決勝ではフランスに敗れたが、3位決定戦でイングランドを破った。
3位は立派な成績である。
世界で3番目に勝ち上がったということなのだから、胸を張っていい。
しかし、黄金世代に対する期待が大きかった分、そこには少しだけ複雑な感情も残る。
あのチームなら、優勝できたのではないか。
あの世代が、ついにベルギーに初めてのワールドカップを持ち帰るのではないか。
そう思わせるだけのチームだった。
だからこそ、3位という結果は、成功でありながら、未完の物語でもある。
サッカーの世界には、優勝しなかったのに忘れられないチームがいる。
1970年代のオランダがそうであるように、ベルギーの黄金世代もまた、タイトルだけでは測れない記憶を残した。
2022年、静かに終わった一つの時代
2022年カタール大会は、ベルギーにとって苦い大会だった。
グループステージで敗退したのである。
2018年に3位まで進んだ国が、次の大会では決勝トーナメントに届かなかった。
カナダには勝ったが、モロッコに敗れ、クロアチアとは引き分けた。結果として、ベルギーはグループで姿を消した。
出典:footballista
この敗退は、単なる一大会の失敗ではなく、一つの時代の終わりのようにも見えた。
アザールは大会後に代表を退いた。
多くの選手が年齢を重ね、黄金世代という言葉にも、少しずつ過去の響きが混じり始めた。
どれほど才能があっても、時間は止まらない。
代表チームも、いつかは世代交代を迎える。
ベルギーは、その現実に向き合うことになった。
ルディ・ガルシアと新しい赤い悪魔
2026年大会でベルギー代表を率いるのは、ルディ・ガルシアである。
出典:FIFA公式
フランス人監督で、クラブで多くの経験を積んできた人物だ。リール、ローマ、マルセイユ、リヨン、ナポリなどを率いてきた経歴があり、2025年1月にベルギー代表の監督に就任した。
代表チームの監督には、クラブとは違う難しさがある。
毎日選手と練習できるわけではない。短い時間でチームをまとめ、大会に合わせて形を作らなければならない。
ベルギーは今、完全な若返りだけをしているわけではない。
デ・ブライネ、ルカク、クルトワ、ヴィツェルのような経験ある選手がまだいる。
一方で、ジェレミー・ドク、アマドゥ・オナナ、ユーリ・ティーレマンスといった、次の時代を担う選手たちもいる。
つまり、ベルギーは過去を完全に手放したわけではない。
黄金世代の余韻を残しながら、次へ進もうとしている。
その中で主将を務めるのが、ユーリ・ティーレマンスである。
彼はもう若手ではなく、チームの中心を担う年齢になった。デ・ブライネやルカクの世代と、新しい世代をつなぐ存在でもある。
ベルギー代表の2026年大会は、単なるリベンジではない。
一つの時代から次の時代へ、どう橋を架けるかの大会でもある。
デ・ブライネ、ルカク、クルトワの存在
それでも、2026年のベルギーを語る上で、やはりデ・ブライネ、ルカク、クルトワの名前は外せない。
ケヴィン・デ・ブライネは、長く世界最高級のミッドフィールダーとして見られてきた。
正確なパス、広い視野、試合を一瞬で変えるキック。彼がいるだけで、ベルギーの攻撃には特別な質が生まれる。
出典:number.bunshun.jp
ロメル・ルカクは、ベルギー代表の歴代最多得点者である。
力強さ、決定力、代表で積み上げてきたゴールの数。批判されることもあった選手だが、それでもベルギーの前線を長く支えてきた存在である。
出典:FOOTBALL ZONE
ティボー・クルトワは、ゴール前の最後の砦である。
大舞台を知る守護神がいることは、ワールドカップでは大きい。拮抗した試合では、ゴールキーパーの一つのセーブが勝敗を変える。
出典:Goal.com
この3人がいる限り、ベルギーにはまだ「もう一度」という空気がある。
ただし、それは同時に「最後かもしれない」という空気でもある。
だからこそ、2026年のベルギーには、独特の重みがある。
グループGで待つエジプト、イラン、ニュージーランド
ベルギーが入ったグループGには、エジプト、イラン、ニュージーランドがいる。
まずエジプト。
モハメド・サラーを擁するアフリカの強豪である。ベルギーにとって、初戦から気の抜けない相手になるだろう。サラーのような選手は、一度のチャンスで試合を決めることがある。

イランは、アジアの中でも国際大会経験が豊富なチームである。
守備が堅く、粘り強く、相手にとって嫌な試合をする。ベルギーがボールを持つ展開になったとしても、簡単に崩せるとは限らない。

ニュージーランドは、グループの中では挑戦者の立場と見られるかもしれない。
だが、ワールドカップではそういうチームこそ怖い。守って耐え、セットプレーや一瞬の隙を狙う展開になれば、ベルギーにとっても簡単ではない。

ベルギーは、おそらくグループGの中心に置かれる国である。
しかし、中心に置かれるということは、常に相手から狙われるということでもある。
黄金世代の名残を持つベルギーにとって、グループステージはただ勝ち抜けばいいだけではない。
新しいチームとして、どのような姿を見せるのか。
そこも問われる。
赤い悪魔の再出発
ベルギー代表には、少し不思議な魅力がある。
国の大きさからすれば、ここまでの選手が一度に集まったこと自体が特別だった。
その黄金世代は、世界を本気で狙った。
2018年には3位になった。
だが、優勝には届かなかった。
そして2022年には、静かにグループステージで消えた。
普通なら、そこで一つの物語は終わる。
しかし、ベルギーはまだ終わっていない。
デ・ブライネがいる。
ルカクがいる。
クルトワがいる。
ティーレマンスが主将としてチームを引っ張る。
ドクやオナナのような新しい力もある。
過去の記憶を背負いながら、次のチームを作る。
これは簡単ではない。懐かしさに引っ張られすぎてもいけないし、過去を急に捨てすぎてもいけない。
ベルギーは、今ちょうどその難しい場所に立っている。
赤い悪魔は、再び世界の舞台に立つ。
それは黄金世代の最後の余韻なのか。
それとも、新しいベルギー代表の始まりなのか。
グループGの戦いは、その答えを少しずつ見せてくれるはずである。
赤いユニフォームが、北米のピッチに現れる。
そこには、2018年の輝きと、2022年の悔しさが重なっている。
ベルギー代表は、もう一度、自分たちの物語を進めようとしている。
その赤が、今度はどこまで鮮やかに残るのか。静かに見届けたい。









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