PK戦の静寂を越えて、スイスが72年ぶりの扉を開いた

ゴールは生まれなかった。

90分でも、延長戦でも、スコアは動かなかった。
スイスとコロンビア。ベスト8をかけた一戦は、0-0のままPK戦へ入った。

そして最後に残ったのは、スイスだった。

PK戦は5-4。
スイスがコロンビアを退け、準々決勝へ進んだ。

出典:Vietnam.vn

派手な試合ではなかった。得点が次々に入るような夜ではない。むしろ、ひとつのミス、ひとつの判断、ひとつのシュートが、そのまま大会の終わりにつながるような、重い試合だった。

コロンビアは、前の試合でガーナを1-0で破ってここまで来た。堅く、粘り強く、決勝トーナメントを進んできたチームである。対するスイスも、アルジェリアを2-0で退けて第2回戦へ進んだ。どちらも簡単には崩れない。だからこそ、この試合が0-0で進んでいったことは、不思議ではなかった。

前半から、両チームは慎重だった。

コロンビアには南米らしい勢いがあり、スイスには欧州らしい我慢強さがあった。ボールを奪った瞬間、コロンビアは一気に前へ出ようとする。スイスは慌てず、距離を保ちながら受け止める。どちらかが大きく崩れるというより、互いに相手の良さを消し合う時間が続いた。

こういう試合は、見ている側にも息苦しさがある。

0-0という数字は静かだが、ピッチの中は静かではない。選手たちは一歩ごとに迷い、走り、ぶつかり、戻る。リスクを取れば勝利に近づく。けれど、その一歩が敗退への入口にもなる。決勝トーナメントの0-0には、そういう怖さがある。

後半に入っても、試合は開ききらなかった。

コロンビアはゴールに近づく場面を作った。セットプレーやクロスから、スイスの守備を揺さぶろうとした。スイスも前に出る時間はあったが、最後のところでコロンビアの守備を破りきれない。互いに、相手のゴール前までは行く。だが、ネットは揺れない。

やがて試合は延長戦へ入った。

この時点で、両チームの足には疲労が見えていた。ワールドカップの決勝トーナメントで120分を戦うというのは、技術や戦術だけの問題ではない。体の奥に残った力、集中力、そして恐怖に負けない心が問われる。

延長戦では、コロンビアに大きなチャンスがあった。

ゴールに近い場面はあった。スイスにとっては、息が止まるような時間だったはずである。だが、最後の一線を越えさせなかった。GKグレゴール・コベルを中心に、スイスは耐えた。派手な攻撃で試合を決めるのではなく、失点しないことで生き残る。そこに、この日のスイスの強さがあった。

120分が終わった。

0-0。

ここから先は、PK戦である。

PK戦は、サッカーの中でも特別な時間だと思う。チームスポーツでありながら、最後はひとりがボールを置き、ひとりが蹴り、ひとりが守る。そこに、国の期待も、仲間の思いも、それまでの120分も、すべて乗ってしまう。

コロンビアにとっても、スイスにとっても、ここまでの試合を無にしないための数本だった。

そして、スイスが上回った。

コベルが止め、スイスのキッカーたちが決めていく。最後まで張り詰めたPK戦の末に、スイスが5-4で勝ち切った。歓喜は爆発したが、その前にあったのは長い長い沈黙だった。0-0の120分を耐え、PK戦の重圧を越えたからこその歓喜である。

この勝利によって、スイスは久しぶりにワールドカップの準々決勝へ進んだ。

それはただの1勝ではない。長い時間、届きそうで届かなかった場所へ進む勝利である。スイスはいつも堅実なチームだった。大崩れはしない。簡単には負けない。けれど、最後の壁を越えられない大会も多かった。

この夜、その壁を越えた。

0-0からのPK戦。
決して華やかな勝ち方ではない。だが、スイスらしい勝ち方でもあった。

一方のコロンビアは、ここで大会を去る。

PK戦での敗退ほど、整理のつかない終わり方はない。試合の中で崩されたわけではない。120分間、スイスにゴールを許さなかった。それでも、最後の数本で敗退が決まる。選手にとっても、サポーターにとっても、簡単に飲み込めるものではない。

コロンビアは勝つつもりで戦っていた。

ベスト8へ進むつもりで、最後まで走っていた。延長戦でも、ゴールを奪いにいった。届かなかっただけで、彼らの戦いが小さかったわけではない。

ワールドカップは残酷である。

ゴールがない試合でも、敗者は生まれる。
120分間失点しなくても、去らなければならないチームがある。

コロンビアの選手たちは、胸を張っていい。ガーナを破り、スイスと120分間戦い抜き、最後はPK戦まで持ち込んだ。敗れたからといって、その歩みまで消えるわけではない。

スイスは次へ進む。

準々決勝の相手はアルゼンチンである。0-2からエジプトを3-2で逆転した王者との対戦になる。アルゼンチンの劇的な勝ち上がりと、スイスの堅実な勝ち上がり。まったく違う色のチームが、ベスト4をかけて向き合うことになる。

スイスにとっては、さらに大きな試練である。

だが、このPK戦を越えたチームには、ひとつの確信が残ったはずだ。苦しい試合でも、ゴールが遠い試合でも、最後まで耐えれば道は開ける。勝ち方はひとつではない。美しく崩して勝つだけが、ワールドカップではない。

0-0。
PK戦5-4。

数字だけを見れば、静かな試合に見える。
だが、その中には、120分の緊張と、PK戦の重圧と、長い歴史を越えたスイスの歓喜が詰まっていた。

コロンビアは去る。
スイスはアルゼンチンの待つ準々決勝へ進む。

ゴールのない夜に、ひとつの扉だけが開いた。
その扉をくぐったのは、スイスだった。

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