決勝トーナメントでは、予定通りに進む試合などほとんどない。
強い方が先に点を取る。
そのまま落ち着いて試合を閉じる。
そういう展開を思い描いていても、ワールドカップは簡単にそれを許してくれない。
アメリカ対ボスニア・ヘルツェゴビナも、そういう試合だった。
結果は、アメリカ 2-0 ボスニア・ヘルツェゴビナ。
開催国アメリカが勝ち抜き、ラウンド16へ進んだ。
スコアだけを見れば、2-0の快勝である。
だが、試合の中身は決して楽なものではなかった。
アメリカは、先制した。
前半終了間際、フォラリン・バログンがゴールを決める。開催国として迎える決勝トーナメント初戦で、先に点を取る。スタジアムの空気は、一気にアメリカへ傾いたはずである。
グループDを首位で突破してきたアメリカにとって、この先制点は大きかった。
開催国の試合には、特別な重圧がある。負ければ大会が終わるだけではない。国中の期待が、そのまま沈黙に変わる。だからこそ、先に点を取ったことは、選手たちを少し自由にしたはずである。
だが、そのあとに試合は難しくなった。
バログンがVAR確認を経て退場となる。
出典:FOOTBALL ZONE
先制点を決めた選手が、今度はピッチを去る。アメリカは10人で戦うことになった。
これは、決勝トーナメントではあまりにも大きい出来事である。
1点をリードしているとはいえ、残り時間は長い。相手はボスニア・ヘルツェゴビナ。3位通過とはいえ、グループリーグを抜けてきたチームである。数的優位を得れば、当然、前へ出てくる。
ここからのアメリカは、勝つための試合というより、まず生き残るための試合になった。
ボスニア・ヘルツェゴビナは、簡単には引き下がらなかった。
グループBでスイス、カナダ、カタールと戦い、3位通過で決勝トーナメントへたどり着いた。決して派手な道ではなかったかもしれない。だが、ワールドカップの決勝トーナメントに残った以上、そこには確かな粘りがある。
1点を追い、相手は10人。
ボスニア・ヘルツェゴビナにとっては、十分にチャンスのある展開だった。
アメリカは耐えた。
ティム・リームやクリス・リチャーズを中心に、守備陣が体を張ったと報じられている。数的不利の中で、相手に押し込まれる時間もあったはずだ。ボールをつなぐ余裕は少なくなり、攻撃の形も限られる。だが、決勝トーナメントでは、美しい試合よりも、まず次へ進むことが求められる。
開催国としての華やかさより、泥臭さが前に出た時間だった。
見ている側からすると、10人で守る試合には独特の緊張がある。
1本のクロス。
1つのこぼれ球。
少しのマークのずれ。
それだけで試合は1-1になる。そうなれば、流れは完全に変わる。延長戦も見えてくる。PK戦の影もちらつく。アメリカはリードしていながら、常に追い詰められているような時間を過ごしていたのではないか。
そこで試合を決めたのが、マリク・ティルマンだった。
後半、ティルマンが直接FKを決める。
アメリカが2-0とした。
出典:Vietnam.vn
このゴールは大きかった。
数的不利の中で、流れを一気に引き戻す一撃だった。守って耐えるだけの試合が、もう一度アメリカの勝利へ向かい始めた。直接FKで突き放すというのも、決勝トーナメントらしい一瞬の重さがある。
ボスニア・ヘルツェゴビナにとっては、痛すぎる2点目だった。
相手は10人。
1点差なら、まだ何かが起こる。
だが、2点差になると、残り時間の重みはまったく変わる。
それでも、ボスニア・ヘルツェゴビナの戦いを軽く扱うことはできない。
このチームは、ワールドカップの決勝トーナメントまで来た。グループリーグを3位で抜け、開催国アメリカと向き合った。相手の観客の熱、相手の勢い、そして早い時間帯からのリード。その中で、数的優位を得てから反撃の時間を作った。
結果としてゴールは奪えなかった。
だが、そこまでの道のりまで消えるわけではない。
ワールドカップで敗れると、すべてが終わったように見える。
たしかに大会は終わる。次の試合はない。選手たちは荷物をまとめ、国へ帰ることになる。
しかし、決勝トーナメントのピッチに立った時間は残る。
ボスニア・ヘルツェゴビナにとって、この敗退は悔しいものだろう。相手が10人になった以上、追いつきたかったはずである。もっとできた、と思う選手もいるかもしれない。だが、勝てなかったことだけで、ここまでの歩みを否定する必要はない。
アメリカは、開催国として次へ進む。
次の相手はベルギーである。
ベルギーはセネガルを相手に、2点ビハインドから追いつき、延長終了間際のPKで3-2と逆転した。あの試合を勝ち抜いたベルギーには、土壇場から戻ってきたチーム特有の熱がある。アメリカにとって、かなり厳しい相手になるだろう。
しかも、アメリカはバログンの退場という問題を抱える。
勝ったとはいえ、次の試合に向けて不安がないわけではない。
それでも、今日のアメリカは勝った。
10人になりながら、無失点で終えた。
先制点を守り、ティルマンのFKで突き放した。
華やかではなかったかもしれない。だが、決勝トーナメントでは、こういう勝利も必要である。
開催国の大会は、まだ終わらない。
アメリカは、苦しみながらも次の扉を開いた。
ボスニア・ヘルツェゴビナは、反撃の可能性を残しながら大会を去った。
2-0という数字の奥には、10人で耐えた時間と、届かなかった国の悔しさがある。
この試合の余韻は、勝者の歓声だけではなく、ボスニア・ヘルツェゴビナが最後まで探し続けた1点の影にも残っている。



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