ケインの二発、イングランドが崖際から戻ってきた

決勝トーナメントでは、国の名前だけでは勝てない。

イングランドという名前には、いつも大きな期待がついて回る。選手の顔ぶれ、プレミアリーグの華やかさ、過去から続く「今度こそ」という空気。グループリーグを首位で突破してきた以上、コンゴ民主共和国を相手にすれば、外からはイングランド優位に見える。

だが、ピッチの上では違った。

結果は、イングランド 2-1 コンゴ民主共和国。
イングランドが勝ち抜き、ラウンド16へ進んだ。

ただし、これは余裕の勝利ではない。
むしろ、敗退の影がすぐ近くまで来ていた試合だった。

先に試合を動かしたのは、コンゴ民主共和国だった。

前半7分、ブライアン・チペンガが決める。
大きな相手に対して、早い時間に先制する。決勝トーナメントでこれほど勇気を与えるゴールはない。コンゴ民主共和国の選手たちは、この瞬間、自分たちにも勝つ資格があると、はっきり感じたはずである。

イングランドにとっては、いきなり重い失点だった。

強豪と呼ばれる国ほど、先に失点したときの空気は難しい。追いかけるだけなら単純だが、そこに「負けてはいけない」という感情が加わる。焦り、硬さ、観客のざわめき。ボールを持っていても、試合を支配している感じがしなくなる。

コンゴ民主共和国は、ただ守るだけではなかった。

グループKを3位で通過してきたチームである。ポルトガル、コロンビア、ウズベキスタンと同じ組を戦い、簡単ではない道を抜けてきた。3位通過という立場は、時に軽く見られる。だが、この試合のコンゴ民主共和国は、決勝トーナメントにふさわしい強度と勇気を見せていた。

特に前半は、イングランドにとって苦しい時間だった。

コンゴ民主共和国のGKリオネル・ムパシは好守を見せ、イングランドの攻撃を何度も止めた。早い先制点のあと、守る側に回る時間が増えても、コンゴ民主共和国は簡単には崩れなかった。イングランドの選手たちは、ボールを動かしながらも、どこか出口を見つけられないように見えた。

決勝トーナメントの怖さは、時間の進み方にある。

0-1のまま時計が進む。
前半が終わり、後半に入る。
残り時間が少なくなるたびに、イングランドの背中には重さが増していく。

このまま終われば、イングランドは敗退である。

そう考え始める時間が、少しずつ現実味を持ってくる。コンゴ民主共和国にとっては、歴史的な勝利が近づいてくる。イングランドにとっては、あまりにも早すぎる終わりが近づいてくる。

そこで試合を変えたのが、ハリー・ケインだった。

75分、ケインが同点ゴールを決める。
途中出場のアンソニー・ゴードンのクロスに合わせ、イングランドがようやく追いついた。

この1点は、ただの同点弾ではない。
敗退の縁から、チームを引き戻すゴールである。決勝トーナメントで、残り15分のところまで負けていたチームが追いつく。その瞬間、試合の空気は大きく変わる。

コンゴ民主共和国にとっては、あと少しだった。

1点のリードを守り切れば、世界を驚かせる勝利が見えていた。だが、そこにケインがいた。イングランドの主将であり、何度も大きな試合で背負ってきた選手である。苦しいときに、最後にボールが届く場所にいる。そういう選手がいる国は、やはり強い。

そして86分。

ケインがもう一度決めた。
今度は勝ち越しゴールだった。

出典:Yahoo!ニュース – Yahoo! JAPAN

イングランド 2-1 コンゴ民主共和国。
試合は、一気にひっくり返った。

7分に先制したコンゴ民主共和国が、75分までリードを守り、しかし最後の15分でイングランドに逆転された。数字だけを追えばそういう試合である。だが、その中にあった緊張は、簡単なものではなかったはずだ。

イングランドにとって、この勝利は安堵の色が濃い。

堂々たる快勝ではない。
問題のない勝利でもない。
むしろ、課題を抱えたまま、それでも生き残った試合である。

だが、決勝トーナメントでは、生き残ることがすべてである。内容に不満があっても、次へ進めば物語は続く。完璧な試合をして敗れるより、不格好でも勝つ方が先へ行ける。イングランドは、その現実をこの試合で受け止めた。

次の相手は、開催国メキシコである。

メキシコはエクアドルを2-0で下し、アステカの熱を背に勝ち上がってきた。イングランドにとって、これは簡単な次戦ではない。メキシコは地元開催の勢いを持ち、守備も堅い。イングランドがこの試合のような入りをすれば、次は取り返せないかもしれない。

それでも、イングランドは次へ進んだ。

出典:Yahoo!ニュース – Yahoo! JAPAN

一方で、コンゴ民主共和国の大会はここで終わる。

この敗退は、胸に残る。
前半早々に先制し、終盤までリードを保った。強豪イングランドを本気で追い詰めた。あと少しで、ワールドカップの歴史に残る勝利が見えていた。

だからこそ、悔しさは大きい。

だが、コンゴ民主共和国の戦いを、惜しかっただけで終わらせたくはない。

彼らはイングランドに対して、恐れずに入った。先に点を取り、守備で耐え、GKムパシを中心に粘り続けた。最後にケインという大きな選手に扉をこじ開けられたが、そこまでの時間は本物だった。

ワールドカップの決勝トーナメントで、イングランドを75分まで追い詰めた。
これは軽い事実ではない。

敗れた国には、敗れた国の表情がある。

うつむく選手もいただろう。
立ち上がれない選手もいただろう。
それでも、彼らの戦いは大会の中に残る。勝てなかったからといって、先制点も、粘った時間も、守った誇りも消えない。

イングランドは、ケインの二発で崖際から戻ってきた。
コンゴ民主共和国は、あと少しのところで夢を閉じた。

勝った国は次の扉へ進む。
敗れた国は、その手前で立ち止まる。

決勝トーナメントとは、そういう場所である。
そしてこの試合には、勝者の安堵と、敗者の惜しみない勇気が、同じくらい濃く残っていた。

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