前回は、グループLの最初としてイングランド代表を見た。
1966年の王冠を背負い、60年ぶりの世界一を目指すサッカーの母国。ケイン、ベリンガム、フォーデン、サカらを抱えながら、それでも「届きそうで届かない白い夢」を追い続ける国である。
そのイングランドと同じグループLに入ったのが、クロアチア代表だ。
イングランドにとって、クロアチアという名前には特別な響きがある。2018年ロシア大会の準決勝。イングランドは早い時間に先制しながら、延長戦の末に逆転負けを喫した。決勝の舞台へ進んだのは、クロアチアだった。
あの時、クロアチアはただ勝っただけではない。人口400万人ほどの国が、粘り強さと技術と誇りで世界の頂点に手をかけた。決勝ではフランスに敗れたが、世界中の人がクロアチアという国の強さを知った大会だった。
そして2022年カタール大会でも、クロアチアは3位に入った。
これは偶然ではない。クロアチアは、もう「小さな国の奇跡」だけでは語れない。ワールドカップで勝ち方を知る国である。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 国名 | クロアチア共和国 |
| 大陸連盟 | UEFA |
| 代表愛称 | ヴァトレニ |
| 監督 | ズラトコ・ダリッチ |
| 主な選手 | ルカ・モドリッチ、マテオ・コヴァチッチ、ヨシュコ・グヴァルディオル、ドミニク・リヴァコヴィッチ、アンドレイ・クラマリッチ、イヴァン・ペリシッチ、マリオ・パシャリッチ |
| ワールドカップ出場 | 7回目 |
| 最高成績 | 準優勝(2018年) |
| 近年の主な成績 | 2018年準優勝、2022年3位 |
| 2026年大会 | グループL |
| グループLの相手 | イングランド、ガーナ、パナマ |
1998年、独立後まもない国が世界を驚かせた
クロアチア代表のワールドカップ史は、1998年フランス大会から大きく始まる。
旧ユーゴスラビアから独立した後、クロアチアが初めてワールドカップ本大会に出場した大会である。その初出場で、いきなり3位に入った。
これは今考えてもすごい。
中心にいたのは、ダヴォール・シュケルだった。左足の技術、落ち着いたフィニッシュ、ストライカーとしての存在感。シュケルはこの大会で得点王に輝き、クロアチアの名前を世界に刻みつけた。
出典:きちのうすめ雑記 – はてなブログ
準々決勝ではドイツを3-0で破った。強豪ドイツを相手に、初出場の国が堂々と勝つ。そのインパクトは大きかった。
準決勝では開催国フランスに敗れたが、3位決定戦でオランダを下し、クロアチアは表彰台に立った。
1998年のクロアチアには、単なる新興国の勢い以上のものがあった。独立から間もない国が、自分たちの旗とユニフォームで世界に立つ。その誇りが、ピッチの上にあふれていた。
赤と白の市松模様のユニフォームは、一度見たら忘れにくい。あの模様は、クロアチア代表の強烈な記憶として世界に広がった。
市松模様のユニフォームが持つ力
出典:FIFA公式
クロアチア代表といえば、やはり赤白の市松模様である。
ワールドカップには多くの美しいユニフォームがある。ブラジルの黄色、アルゼンチンの水色と白、オランダのオレンジ、イタリアの青。そこに並んで、クロアチアの赤白の市松模様も強く記憶に残る。
このユニフォームには、国の存在感そのものがある。
クロアチアは人口で見れば大国ではない。サッカーの市場規模でも、イングランドやドイツ、フランス、スペインのような巨大な国ではない。だが、ワールドカップのピッチに立つと、クロアチアは小さく見えない。
その理由のひとつが、あのユニフォームなのだと思う。
市松模様は、遠くからでもすぐに分かる。ピッチの上で選手たちが走ると、赤と白が揺れる。そこには、国の誇りをそのまま着ているような強さがある。
クロアチアのサッカーは、派手なスター軍団というより、技術と粘りと経験で試合を引き寄せる。だが、ユニフォームだけは非常に強い。静かなチームの内側にある炎を、あの赤白が表しているようでもある。
モドリッチという時代
出典:FIFA公式
現代クロアチア代表を語る時、ルカ・モドリッチの名前を避けることはできない。
小柄で、細く、見た目だけなら強靭なアスリートという印象ではない。だが、ピッチに立つと、彼は試合の時間を操る。ボールの置き方、パスの角度、相手の寄せを外す動き、試合の流れを読む目。すべてが特別である。
モドリッチは、クロアチア代表の顔であり、心臓であり、記憶そのものになった。
2018年ロシア大会で、彼はクロアチアを決勝へ導いた。延長戦を何度も戦い、疲労が限界に近づいても、彼は中盤で走り続けた。その姿は、技術だけでなく、精神力の象徴でもあった。
この大会でモドリッチは大会最優秀選手に選ばれ、その年のバロンドールも受賞した。メッシとロナウドの時代が続いていた中で、モドリッチが世界最高の選手として認められたことは、サッカー史の中でも大きな出来事だった。
クロアチアという小さな国から、世界最高の選手が生まれた。
その事実は、国民にとってどれほど誇らしかっただろうか。
2018年、決勝まで走り切った国
during the 2018 FIFA World Cup Russia group D match between Croatia and Nigeria at Kaliningrad Stadium on June 16, 2018 in Kaliningrad, Russia.
出典:きちのうすめ雑記 – はてなブログ
2018年ロシア大会のクロアチアは、忘れがたいチームだった。
グループステージでアルゼンチンを破り、決勝トーナメントではデンマーク、ロシア、イングランドを相手に、延長戦やPK戦を戦い抜いた。楽な道ではなかった。むしろ、毎試合のように消耗していた。
それでも、クロアチアは倒れなかった。
準決勝のイングランド戦は、その象徴である。早い時間にトリッピアーのフリーキックで先制される。イングランドが勢いに乗り、試合の流れをつかんだように見えた。
だが、クロアチアは慌てなかった。
後半にイヴァン・ペリシッチが同点ゴールを決め、延長戦でマリオ・マンジュキッチが勝ち越し点を奪った。走り続け、耐え続け、最後に勝ったのはクロアチアだった。
決勝ではフランスに敗れた。だが、準優勝はこの国にとって大きな到達点であった。ザグレブに帰国した選手たちを迎えた大群衆の映像を見ると、この大会が国にとってどれほど大きな意味を持っていたかが分かる。
クロアチアは、世界の中心にいた。
2022年、もう一度表彰台へ
出典:FIFA公式
2018年の準優勝は、奇跡だったのか。
その問いに、クロアチアは2022年カタール大会で答えた。
クロアチアは再び上位へ進み、3位に入った。準々決勝ではブラジルを破った。ネイマールのゴールで先制されながら、延長終盤に追いつき、PK戦で勝利した。
この試合もまた、クロアチアらしかった。
相手がどれだけ華やかでも、どれだけ強くても、クロアチアは簡単には崩れない。苦しい時間を耐え、最後に自分たちの勝負へ持ち込む。PK戦になれば、落ち着いている。ゴールキーパーのドミニク・リヴァコヴィッチも存在感を示した。
準決勝ではアルゼンチンに敗れたが、3位決定戦でモロッコを下し、再び表彰台に立った。
2大会連続でベスト3。
これは、たまたまではない。クロアチアは、ワールドカップで勝つための方法を知っている国になった。大会の中で消耗しても、試合がもつれても、相手が大国でも、最後まで勝機を手放さない。
そのしぶとさこそが、クロアチアの強さである。
ダリッチ監督と変わらない芯
出典:FIFA公式
ズラトコ・ダリッチ監督は、2018年の準優勝、2022年の3位を率いた人物である。
派手な監督という印象ではない。だが、クロアチア代表をひとつのチームとしてまとめる力がある。スターを並べるだけではなく、国のために戦う集団にする。そこがダリッチの大きな仕事だった。
クロアチアは、代表への思いが強い国である。選手たちは欧州の名門クラブでプレーしていても、代表に戻ると独特の結束を見せる。これは監督の力だけではない。国の歴史、選手同士の関係、サポーターの期待、すべてが重なっている。
ただ、それを大会で結果に変えるのは簡単ではない。
ダリッチは、それを何度もやってきた。短期決戦での試合運び、ベテランの扱い、若い選手の起用、延長戦やPK戦へ持ち込む精神的な準備。クロアチアの強さには、監督の安定感も大きく関わっている。
2026年も、クロアチアはダリッチ体制で臨む。
これは大きな安心材料である。チームの芯が変わっていないからだ。
モドリッチの物語が、静かに次の世代へ渡る大会
出典:Yahoo!ニュース – Yahoo! JAPAN
2026年大会は、モドリッチにとって、おそらくワールドカップの舞台で見られる最後の大会になるだろう。
彼はすでに40歳である。普通なら、代表の中心としてワールドカップに向かう年齢ではない。だが、モドリッチの場合、普通という言葉があまり当てはまらない。
年齢を重ねても、彼の存在感は消えない。
もちろん、若い頃のように全ての場面で走り回ることは難しいかもしれない。試合ごとの起用法も慎重になるだろう。だが、彼がピッチにいるだけで、クロアチアの時間は少し落ち着く。
ボールを受ける。前を向く。相手を引きつける。外す。味方に渡す。
それだけで、試合の呼吸が整う。
モドリッチは、クロアチア代表にとって単なるベテランではない。彼がいることで、2018年と2022年の記憶がそのまま現在につながる。若い選手たちにとっては、ピッチの上で歴史と一緒に戦うような感覚だろう。
2026年のクロアチアを見る時、どうしてもモドリッチの姿を追ってしまう。
それは年齢への興味だけではない。ひとつの時代が、どのように余韻を残しながら次へ渡っていくのかを見たいからである。
グヴァルディオルと次の世代
ただ、クロアチアはモドリッチだけのチームではない。
ヨシュコ・グヴァルディオルがいる。
若くして欧州のトップレベルで存在感を示す守備者であり、クロアチアの次の時代を象徴する選手である。センターバックとしても、左サイドでもプレーでき、身体能力、技術、ビルドアップ能力を兼ね備えている。
出典:Yahoo!ニュース – Yahoo! JAPAN
2022年大会でも、彼の存在感は大きかった。若い選手でありながら、ワールドカップの大舞台で堂々とプレーした。あの経験は、2026年に必ず生きる。
中盤にはマテオ・コヴァチッチがいる。モドリッチほど象徴的ではないかもしれないが、ボールを運び、相手の圧力を外す力を持つ。クロアチアの中盤らしい技術を受け継ぐ選手である。
さらに、マリオ・パシャリッチ、アンドレイ・クラマリッチ、イヴァン・ペリシッチ、リヴァコヴィッチら、経験ある選手たちもいる。若手ではルカ・ヴシュコヴィッチなど、次の世代の名前も見える。
クロアチアは、世代交代の途中にいる。
完全に新しいチームではない。だが、2018年のチームそのままでもない。モドリッチの時代の余韻を残しながら、グヴァルディオルたちの時代へ少しずつ移っていく。その途中のクロアチアが、2026年の姿である。
小さな国が大きく見える理由
クロアチアの人口は、世界のサッカー強国と比べれば決して多くない。
それでも、ワールドカップでは大きな国に見える。
なぜなのか。
ひとつは、技術の高さである。クロアチアの選手たちは、ボールを扱うことがうまい。中盤で相手のプレッシャーを受けても慌てず、パスをつなぎ、試合の流れを作る。旧ユーゴスラビアのサッカー文化から続く技術の伝統も感じる。
もうひとつは、粘り強さである。クロアチアは、簡単には試合を諦めない。延長戦になっても、PK戦になっても、むしろそこから強さを見せる。相手が先に疲れ、焦り、ミスをするまで、じっと待つことができる。
そして、国としての一体感がある。
独立後の歴史、国旗、ユニフォーム、代表への思い。そうしたものが、選手たちの背中に乗っている。これは数字では測れない。だが、ワールドカップのような大会では、こうした見えない力が試合に出ることがある。
クロアチアは、いつも大国に見える。
それは、国の大きさではなく、代表の背負い方が大きいからなのだろう。
グループLでの再会
グループLでクロアチアが対戦するのは、イングランド、パナマ、ガーナである。
最初の相手はイングランド。これは大きな一戦になる。
2018年準決勝の記憶がある。イングランドにとっては雪辱の相手であり、クロアチアにとっては自分たちが世界の決勝へ進んだ記憶とつながる相手である。2026年の初戦でこのカードが組まれていることは、グループLの空気を一気に高める。
イングランドは、ケイン、ベリンガム、フォーデン、サカらを抱える強豪である。トゥヘル監督のもとで、60年ぶりの優勝を狙っている。クロアチアにとっては、初戦から最大級の集中が必要になる。

次にパナマ。2018年大会にも出場した中米の国であり、再び世界の舞台に立つ。クロアチアとしては勝ち点3を狙いたい相手だが、こういう試合こそ難しい。相手が粘れば、焦りが出る。格上として落ち着いて試合を進められるかが問われる。

最後はガーナである。
アフリカ勢らしい身体能力と勢いを持つ国であり、ワールドカップでの経験もある。クロアチアの中盤がボールを握れるか、相手の速さをどう受け止めるかが鍵になる。

グループLは、イングランドとクロアチアが突破候補と見られるだろう。だが、48か国大会では3位にも可能性がある。ガーナやパナマも勝ち点を狙ってくる。楽なグループではない。
クロアチアに必要なのは、これまでと同じく、慌てないことだ。
勝ち方を知る国の怖さ
出典:CNN
ワールドカップでクロアチアが怖いのは、派手に相手を圧倒するからではない。
勝ち方を知っているからである。
グループステージで少し苦しんでも、大会の中で調子を上げてくる。延長戦になっても、表情を変えない。PK戦になっても、崩れない。相手が「そろそろ決めなければ」と焦る時間帯に、クロアチアはまだ冷静でいる。
これは簡単に身につくものではない。
2018年と2022年の経験が、チームの中に残っている。モドリッチ、コヴァチッチ、ペリシッチ、リヴァコヴィッチ。大舞台での苦しい時間を知る選手たちがいる。そして若い選手たちは、その背中を見ている。
ワールドカップでは、勢いのあるチームが一気に勝ち上がることもある。だが、最後にものを言うのは、苦しい試合をどう耐えるかである。
その点で、クロアチアは非常に嫌な相手である。
相手にとっては、早く倒したいのに倒れない。勝ったと思ったのに追いついてくる。延長戦に入ると、むしろクロアチアの土俵になる。そんな印象すらある。
2026年も、この国は簡単には消えないだろう。
モドリッチの余韻と、その先
2026年のクロアチア代表には、ひとつの静かなテーマがある。
モドリッチの時代の終わりである。
もちろん、彼自身がどう考えているかは分からない。だが、年齢を考えれば、ワールドカップで彼を見る時間は残り少ない。2018年の決勝、2022年の3位、そして2026年。クロアチア代表とモドリッチの物語は、長く濃いものになった。
ただ、それは寂しさだけではない。
グヴァルディオルがいる。若い選手たちがいる。クロアチアのサッカー文化は続いていく。モドリッチが残したものは、トロフィーだけではなく、戦い方であり、代表への向き合い方であり、小さな国でも世界の中心へ行けるという証明である。
その証明は、次の世代に引き継がれる。
2026年のクロアチアは、過去の栄光を懐かしむだけのチームではない。まだ勝とうとしている。まだ上へ行こうとしている。モドリッチの余韻を抱えながら、次のクロアチアを探している。
その姿が、どこか静かで美しい。
赤白の市松模様は、まだ消えない
出典:朝日新聞
クロアチア代表は、ワールドカップ2026で再び世界の舞台に立つ。
1998年の3位。2018年の準優勝。2022年の3位。国の大きさを考えれば、驚くべき実績である。だが、クロアチアを見ていると、それを奇跡だけで片づける気にはならない。
技術がある。粘りがある。経験がある。
そして、代表というものへの強い思いがある。
グループLでは、イングランドとの再会が待っている。ガーナの力強さも、パナマの粘りもある。簡単な道ではない。だが、クロアチアはこれまでも簡単ではない道を歩いてきた。
モドリッチがどれだけピッチに立つのか。グヴァルディオルたち新しい世代がどこまで支えるのか。ダリッチ監督が、もう一度このチームを大会の深い場所へ連れていけるのか。
赤白の市松模様は、北米のピッチでもよく映えるだろう。
そしてその模様を見るたびに、思い出すはずである。
この小さな国は、ワールドカップで本当にしぶとい。
モドリッチの余韻とともに、クロアチアはまた歩き出す。
静かに、しかし簡単には倒れない国として。











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