ワールドカップの初戦で、90分にゴールが決まる。
それだけで、試合の記憶は大きく変わる。引き分けで終わりそうだった空気が、わずか数秒で歓喜と沈黙に分かれる。コートジボワール対エクアドルは、まさにそういう一戦だった。
グループEの初戦。前の試合ではドイツがキュラソーに大勝していた。だからこそ、この試合は両国にとって大きかった。勝てばドイツを追いかける位置に立てる。引き分けなら、次の試合からさらに苦しくなる。初戦でありながら、すでにグループの流れを左右する重さがあった。
結果は、コートジボワール1-0エクアドル。
決勝点は90分、アマド・ディアロだった。
そこに至るまでの試合は、簡単ではなかった。エクアドルは南米予選から続く堅い守備を持つチームであり、なかなか崩れない。中盤にはモイセス・カイセドがいて、守備の強度も高い。派手に打ち合うというより、相手の良さを消しながら、少ない隙を待つような試合になった。
出典:FIFA公式
コートジボワールも、戻ってきたワールドカップで簡単に初戦を落とすわけにはいかなかった。アフリカ王者としての誇りがある。大会に戻ってきた手応えもある。だが、エクアドルの守備はやはり固く、前半から何度かチャンスは作っても、最後の一線を越えることができない。
エクアドルにも惜しい場面があった。ジョン・イェボア、アラン・ミンダのシュートがクロスバーを叩いたと報じられている。ゴールまで、あと少し。サッカーでは、この「あと少し」が試合後に長く残る。入っていれば、まったく違う試合になっていただろう。
一方のコートジボワールも、エリー・ワイの一撃がバーを叩いた。互いにゴールへ近づきながら、点だけが入らない。こういう試合は、時間が進むほど重くなる。観客の声も、選手の表情も、少しずつ焦りを帯びていく。
0-0のまま終盤へ向かう。
初戦では、引き分けも悪くないと考える時間帯がある。無理をして失点するくらいなら、勝ち点1を持ち帰る。そういう現実的な計算が、ピッチの空気に入り込むこともある。しかし、この日のコートジボワールは、最後まで勝ちに行った。
90分、右サイドをウィルフリード・シンゴが持ち上がる。そこからアマド・ディアロへボールが渡る。ディアロはペナルティエリアの外から、落ち着いてファーサイドへ流し込んだ。
土壇場の決勝点である。
出典:Vietnam.vn
この一撃で、試合の意味は一変した。コートジボワールにとっては、勝ち点1ではなく勝ち点3。エクアドルにとっては、耐えていた試合が最後に崩れた敗戦になった。
アマド・ディアロのゴールには、派手な力任せの感じではなく、冷静さがあった。あの時間帯に、あの場面で、きちんとコースへ置く。大舞台では、その落ち着きが何より大きい。途中まで拮抗していた試合を、最後に個の質が動かした。
エクアドルにとっては、あまりにも苦い終わり方である。
19試合続いていた無敗の流れが止まったという報道もある。しかも、内容として何もできなかったわけではない。クロスバーを叩く場面があり、守備でも粘っていた。だからこそ、90分の失点は重い。勝ち点1が見えていたところから、何も持ち帰れない結果になった。
コートジボワールにとっては、価値のある白星発進である。
ドイツが大勝したグループEで、まず勝ち点3を取った意味は大きい。得失点差ではドイツが前に出ているが、勝ち点では並んだ。次に待つドイツ戦へ向けて、コートジボワールは堂々と進める。初戦で勝ったチームには、次の試合へ向かう足取りが違う。
この試合を振り返ると、コートジボワールの勝利には派手さよりも粘りがあった。
押し切ったというより、最後まで諦めずに勝ち筋を探し続けた。守備の集中を切らさず、エクアドルのチャンスをしのぎ、終盤に一瞬の隙を突いた。アフリカ王者らしい勢いと、ワールドカップを戦うための現実感。その両方があった。
エクアドルは、次のキュラソー戦が重要になる。初戦を落としたことで、もう余裕は少ない。内容に手応えがあったとしても、勝ち点はゼロである。ワールドカップでは、良い試合をしただけでは前に進めない。数字として残る結果が、次の試合の重圧になる。
コートジボワールは、最後に扉をこじ開けた。
エクアドルは、最後に扉を閉め切れなかった。
1-0というスコアは小さい。けれど、その一つのゴールが、グループEの空気を大きく動かした。90分の一撃は、勝った国には希望として残り、敗れた国には痛みとして残る。
ワールドカップの初戦は、時に残酷である。
この試合もまた、最後の数秒で両国の表情をまったく違うものに変えた。コートジボワールの選手たちは歓喜の中で次へ向かい、エクアドルの選手たちは、手の中からこぼれた勝ち点を思いながら次へ向かう。
それが、90分に決まったゴールの重みである。



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