ワールドカップ2026出場国紹介の第2回は、南アフリカ代表である。
第1回では、開催国のひとつであるメキシコ代表を取り上げた。メキシコは「強いのに、あと一歩届かない国」という印象があるチームだった。
そのメキシコと、2026年大会の開幕戦で対戦するのが南アフリカである。
この組み合わせには、少し特別な響きがある。
メキシコ対南アフリカ。
このカードを聞くと、2010年のワールドカップを思い出す人も多いと思う。2010年大会は、南アフリカで行われた。アフリカ大陸で初めて開催されたワールドカップであり、その開幕戦が南アフリカ対メキシコだった。
そして2026年大会でも、開幕戦はメキシコ対南アフリカである。
今度は舞台がメキシコになる。2010年に迎える側だった南アフリカが、2026年にはメキシコに乗り込んでいく。こういう巡り合わせを見ると、ワールドカップという大会は、ただ試合を並べているだけではないのだと思う。時間をまたいで、過去の記憶がもう一度戻ってくる。
まず、南アフリカ代表の基本情報を整理しておきたい。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 国名 | 南アフリカ |
| 愛称 | バファナ・バファナ |
| 2026年大会 | アフリカ予選を突破して出場 |
| グループ | A組 |
| 対戦相手 | メキシコ、韓国、チェコ |
| 監督 | フーゴ・ブロース |
| W杯出場 | 1998年、2002年、2010年、2026年 |
| W杯最高成績 | グループステージ |
| 代表最多出場級の選手 | クイントン・フォーチュン、ベニー・マッカーシー、ルーカス・ラデベ、アーロン・モコエナ |
| 印象的な場面 | 2010年大会開幕戦、シフィウェ・チャバララのゴール |
南アフリカ代表の愛称は「バファナ・バファナ」である。
日本語にすると「少年たち」という意味合いで語られることが多い。どこか親しみやすい響きがある。強豪国の愛称には、猛獣や戦士を思わせるものも多いが、「バファナ・バファナ」には、国民が自分たちのチームを身近に呼んでいるような温かさがある。
出典;FIFA公式
南アフリカ代表は、ワールドカップの常連国ではない。
初出場は1998年のフランス大会である。そこで世界の舞台に登場し、2002年の日韓大会にも続けて出場した。そして2010年、自国開催のワールドカップに開催国として出場した。
しかし、いずれの大会でも決勝トーナメントには進めていない。
ここに、南アフリカ代表の難しさがある。
南アフリカは、世界的に見ればサッカーだけの国ではない。ラグビーやクリケットも大きな存在であり、スポーツ文化そのものが多層的である。サッカーも熱いが、ブラジルやアルゼンチンのように、国全体がサッカーだけで語られる国とは少し違う。
それでも、2010年のワールドカップは特別だった。
アフリカ大陸で初めてのワールドカップ。南アフリカが世界を迎える大会。あのとき、スタジアムに鳴り響いていたブブゼラの音を覚えている人も多いと思う。テレビで見ていても、ずっと低く響き続けるあの音は、2010年大会そのものの記憶になっている。
そして開幕戦で、南アフリカはメキシコと対戦した。
その試合で生まれたのが、シフィウェ・チャバララのゴールである。
左足で放たれた強烈なシュートが、ゴールに突き刺さる。南アフリカのスタジアムが爆発するように沸いた。あの瞬間だけを切り取れば、南アフリカはまるで大会の主役だった。
出典;FIFA公式
しかし、結果として南アフリカはグループステージで敗退した。
開催国でありながら、決勝トーナメントに進めなかった。これはワールドカップ史上初めてのことだった。大会を迎える国として大きな役割を果たしながら、チームとしては次の段階へ進めなかった。
その事実は、南アフリカ代表にとって重い記憶だったはずである。
2026年大会で南アフリカが戻ってくる意味は、そこにあると思う。
ただの出場ではない。2010年の記憶を背負って、もう一度ワールドカップに戻ってくるのである。
しかも、開幕戦の相手はまたメキシコである。

2010年は、南アフリカが迎える側だった。2026年は、メキシコが迎える側になる。立場が入れ替わる。舞台も変わる。けれど、カードは同じである。
これは、かなり美しい巡り合わせだと思う。
もちろん、サッカーは美しい物語だけで勝てるものではない。南アフリカはグループAの中で、決して有利な立場ではない。相手は開催国メキシコ、アジアの強豪である韓国、欧州のチェコである。どの試合も簡単ではない。
それでも、南アフリカには勢いがある。
監督はベルギー人のフーゴ・ブロースである。経験豊かな監督であり、カメルーン代表を率いてアフリカネーションズカップを制した実績もある。南アフリカ代表でもチームを立て直し、2026年大会への出場に導いた。
ブロース監督は、2026年大会で南アフリカを初めて決勝トーナメントへ連れていくことを目指している。
南アフリカ代表にとって、これはとても分かりやすい目標である。
優勝を狙うというより、まずはグループステージを越えること。過去3度のワールドカップで届かなかった場所へ進むこと。2010年に自国で果たせなかったことを、16年後に別の大陸で果たすこと。
この構図は、エッセイとしても非常に書きやすい。
南アフリカ代表は、ワールドカップにおける「戻ってくる国」である。
かつて世界を迎えた国。大きな熱狂を作った国。けれど、自分たちのチームはその熱狂の中で勝ち残れなかった国。その国が、時間を置いてもう一度ワールドカップに戻ってくる。
こういうチームにも私は惹かれる。
強豪国を見る楽しさはもちろんある。ブラジル、アルゼンチン、フランス、ドイツ、スペイン。そういう国は、優勝するかどうかで語られる。
しかし、南アフリカのような国は少し違う。
彼らにとってのワールドカップは、優勝だけではない。自分たちが世界の舞台に戻ってきたこと。過去の記憶を乗り越えること。国のサポーターに、もう一度大きな喜びを届けること。そういう意味を持っている。
2010年の南アフリカ大会は、サッカーの大会であると同時に、国そのものが世界に向かって開かれたような大会だった。
その中で、南アフリカ代表は決勝トーナメントには行けなかった。だが、チャバララのゴールは残った。メキシコ戦の歓声は残った。ブブゼラの音は残った。
結果だけを見れば、グループステージ敗退である。
でも、記憶としては消えていない。
サッカーには、そういうことがある。勝ったチームだけが記憶に残るわけではない。優勝しなかった国の一瞬が、何年も人の中に残ることがある。
南アフリカ代表は、まさにそういう国だと思う。
2026年大会では、南アフリカは再びメキシコと開幕戦を戦う。
この試合を見るとき、単に「グループAの第1戦」として見るだけではもったいない。2010年の開幕戦を思い出しながら見ると、まったく違う意味を持ってくる。
あのとき南アフリカは、自分たちの国でワールドカップを始めた。
今度は、メキシコの地でワールドカップを始める。
その16年の間に、南アフリカ代表はワールドカップから遠ざかっていた。2014年も、2018年も、2022年も本大会には出ていない。だから2026年は、久しぶりに戻ってきた大会である。
出典;FIFA公式
久しぶりに戻ってきた場所で、最初に待っている相手がメキシコ。
これは、できすぎているくらいの物語である。
もちろん、南アフリカが勝てるかどうかは分からない。グループを突破できるかどうかも分からない。むしろ、下馬評では厳しい立場に置かれるかもしれない。
しかし、南アフリカには失うものが少ない。
開催国だった2010年とは違い、今度は過度な期待を背負いすぎているわけではない。挑戦者として戦える。知られていないことが、逆に武器になることもある。
サッカーでは、ときどきそういうチームが大会を面白くする。
誰も優勝候補とは思っていなかった国が、粘り強く戦い、ひとつ勝ち、またひとつ勝ち、気がつくと大会の空気を変えている。南アフリカがそこまで行けるかどうかは分からない。けれど、少なくとも彼らには、「初の決勝トーナメント進出」というはっきりした目標がある。
それは、見る側にとっても分かりやすい。
メキシコ代表の記事では、「強いのに、あと一歩届かない国」と書いた。
南アフリカ代表については、こう言いたい。
「記憶を残したまま、結果には届かなかった国」である。
2010年の南アフリカは、世界中の人の記憶に残った。しかし、チームとしてはグループステージを突破できなかった。だから2026年は、その記憶に結果を重ねられるかどうかの大会になる。
これは、派手な優勝候補の物語ではない。
だが、ワールドカップを見るうえで、とても大切な物語だと思う。
ワールドカップには、勝つために来る国がある。歴史を守るために来る国がある。初めて世界に名を刻むために来る国もある。
南アフリカは、過去の記憶をもう一度未来へつなぐために戻ってくる国なのかもしれない。
2026年6月、メキシコ対南アフリカで大会は始まる。
16年前、南アフリカの地で鳴り響いた歓声とブブゼラの音を少しだけ思い出しながら、その試合を見たい。
南アフリカ代表は、今度こそグループステージの向こう側へ行けるのだろうか。
その答えを見届けることが、2026年ワールドカップの楽しみのひとつになりそうである。




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