2002年夏にTBS系列で放送された「ぼくが地球を救う」は、お笑いコンビ・ウッチャンナンチャンの内村光良が主演を務めた全11話のテレビドラマである。階段から転落したことで他人の心の声が聞こえる超能力を手に入れた冴えないサラリーマンが、やがて文字通り「地球を救う」までを描く痛快コメディだ。
放送後に一度も再放送されず、ファンの熱烈な葉書運動によってようやくDVD化された”幻の作品”として知られる。プロデューサーの磯山晶(『木更津キャッツアイ』『池袋ウエストゲートパーク』)、脚本の中園ミホ(『やまとなでしこ』)という実力派スタッフが手がけ、哀川翔・古田新太・奥菜恵・阿部サダヲ・玉木宏ら豪華キャストが共演した。
基本情報と制作陣の布陣
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| タイトル | ぼくが地球を救う |
| 形式 | 連続テレビドラマ(全11話・各54分) |
| 放送局 | TBS系列「カネボウ木曜劇場」枠 |
| 放送期間 | 2002年7月4日〜9月12日(毎週木曜22:00〜22:54) |
| プロデューサー | 磯山晶 |
| 脚本 | 中園ミホ、相内美生 |
| 演出(監督) | 片山修、吉田秋生、平野俊一 |
| 音楽 | 河野伸 |
| 主題歌 | 「ぼくが地球を救う〜Sounds Of Spirit〜」Skoop On Somebody |
| 制作 | TBS |
| DVD-BOX発売 | 2004年4月29日(アスミック・5枚組) |
「カネボウ木曜劇場」はカネボウの単独提供番組として2002年に設けられた枠で、本作はその第2弾にあたる。初回のみ15分拡大の23:09まで放送された。
豪華キャストと東京地名にちなんだ登場人物
本作の際立った特徴として、全登場人物の姓が東京近郊の地名になっている。足立(足立区)、渋谷、白金、月島、品川など、各地名のイメージがそのまま役柄の性格に反映されるという遊び心が効いた設定だ。
主要キャストは以下の通り。主演の内村光良を筆頭に、哀川翔が幼なじみ兼政府エージェント役、古田新太が短気だが繊細な上司役、元宝塚トップスター・愛華みれがテレビドラマ初出演でマドンナ役を務めるなど、個性的な顔ぶれが揃った。
- 足立友作(38歳) ── 内村光良:冴えないサラリーマン。階段転落後に超能力「センシティブ」を獲得
- 綾瀬しのぶ(25歳) ── 真中瞳:清純派に見えて腹黒いOL
- 渋谷是広(37歳) ── 古田新太:ナナカン課長。短気だが妹思いのシスコン
- 大門十三(37歳) ── 哀川翔:友作の幼なじみ。正体は政府の秘密エージェント
- 白金愛子(37歳) ── 愛華みれ:国際線CA。友作の中学時代からの憧れの女性
- 桜新町弘(30歳) ──堀内健: ナナカンを見下す公認会計士で前社長・辰巳要蔵のスパイ。
- 辰巳要蔵(58歳)──江守徹: 丸の内物産の前社長で、犬と株に夢中の入り婿。会社を外資へ売ろうとして妻に解任されるが、のちに「センシティブ」を利用する陰謀側に加担する。
- 辰巳貴子(?)──夏木マリ: 丸の内物産創業者の孫で現社長。会社売却を企んだ要蔵を社長職から追い出し、自らトップに立つが、根底では夫への愛情も強い。
ゲスト出演者も豪華で、石田ゆり子(一人二役)、渡辺いっけい、玉木宏、阿部サダヲ、酒井若菜、鈴木杏樹らが各話に登場。さらに愛犬カリートの「心の声」をウド鈴木が担当するというユニークな仕掛けもあった。
階段から転落して57分間の超能力を得る男の物語
丸の内物産 経理部第7管理課(通称「ナナカン」)に勤務する足立友作は、気弱でうだつの上がらない38歳のサラリーマン。
出典:TBS
ある日、会社の階段から転落して危篤状態に陥る。奇跡的に意識を取り戻した友作だが、驚くべき変化が起きていた。階段から落ちた後、危篤状態だったのと同じ57分間だけ他人の心の声が聞こえる超能力「センシティブ」を手に入れていたのだ。この「57分」という制限時間は、ウルトラマンの3分間活動限界から着想を得たもので、60分マイナス3分=57分という遊び心ある設定である。
能力を発動するには毎回「階段から転落する」必要があるため、友作は文字通り体を張りながら、周囲の人々のトラブルを解決していく。
当初は、直属の課長・渋谷是広や後輩・飯倉航介、同僚の綾瀬しのぶたちの本音が聞こえてしまい、友作はショックを受け、自分への評価に落ち込むこともある。
しかし同時に、パワハラ上司によるセクハラ、社内横領、看護師のアルコール依存、援助交際に絡むストーカー、ホストまがいの同僚の詐欺行為など、会社や病院などで起こる問題の裏側も、心の声を通じて知ることになる。
友作は臆病ながらもセンシティブ能力を使って真相を探り、ときに自分が悪役になる覚悟で告発し、当事者に本音をぶつけさせながら、毎回誰か一人以上の人生を良い方向へ導いていく。
その過程で、セクハラ上司は左遷され、横領をした社員は自分の罪と向き合い、アル中看護師や男遊びの激しいナースは立ち直り、ブリッコOLの過去も暴かれて改心していくなど、1話完結の人助けエピソードが積み重なっていく。
一方、友作の憧れの女性・白金愛子は、キャリアCAとして世界を飛び回るものの、健康問題やプライベートの寂しさを抱えている。
友作はたびたび彼女との約束を「人助け」のせいでドタキャンしてしまい、愛子には“頼りない男”としか思われないまま距離は縮まらない。
友人・大門の過去と偽りの記憶喪失(第7話)
中盤の大きなエピソードとして、友作の親友・大門十三の亡き妻・みゆき(石田ゆり子)と瓜二つの女性・蒲田涼子が登場する。
記憶喪失だと名乗る涼子に、大門はみゆきの面影を重ねて惹かれるが、友作はセンシティブで「彼女が過去の詐欺事件や隠し金に関わっている」ことを知ってしまう。
涼子は、実は詐欺に加担した夫の残した1億円の隠し金を抱えており、記憶喪失も芝居であったが、追われる身として必死に生きていたことも明らかになる。
友作は涼子の本心と大門の気持ちを聞き取り、最終的に大門が「みゆきへの想い」と「涼子という新しい人生」のどちらを選ぶか腹をくくるまでを、陰から支える。
醤油老舗の跡継ぎ問題としのぶの過去(第8~9話)
里子が当主を務める老舗「千石醤油」では、孫娘・夏美の実父を名乗る人物が現れ、会社の利権を巡る思惑が渦巻く。
友作は醤油の味が分かる夏美や、その周囲の本心をセンシティブで聞き取り、偽物の父親と本当に夏美を思いやる人物を見抜き、老舗を守る方向へ導く。
同時期、ヒロイン・綾瀬しのぶ自身の過去も掘り下げられる。
幼い頃に父に捨てられ、母と二人でパンを焼きながら貧しく暮らしてきたこと、その母も病死したことから「誰よりも幸せになりたい、愛されたい」という強烈な欲求と歪んだ自己防衛が、彼女の“性格ブス”さの裏にあると明かされる。
友作はしのぶの心の声も聞いてしまうため、普段の口の悪さや打算の裏にある孤独や優しさを知り、彼女に対しても単純な嫌悪ではなく、複雑な共感を抱くようになる。
クライマックス:センシティブと世界規模の陰謀(第10話~最終回・ネタバレ)
外資「Silver Unicorn」と化学兵器「ゲルニカ2002」
会社を外資に売り飛ばそうとして解任されていた前社長・辰巳要蔵は、実は世界的コングロマリット「Silver Unicorn」社と手を組んでいた。
Silver Unicornは「センシティブ能力者」を世界中から集め、心の声を読む力をテロや戦争に利用しようとしており、要蔵の会社売却もその布石だったと判明する。
Silver Unicorn社長のデトロイトは、センシティブたちに化学兵器「ゲルニカ2002」を運ばせ、世界規模のテロを起こす計画を進めている。
要蔵自身も雷に打たれたことで長時間センシティブ状態になれるようになり、自らゲルニカ2002の運搬役を買って出るほどに暴走する。
センシティブ強化訓練所と仲間たち
要蔵は「ほのぼの愛犬財団の愛犬旅行」と偽って友作をおびき寄せ、「センシティブ強化訓練所」へ連行する。
そこには、雷や感電、温泉での心臓発作など、様々なきっかけでセンシティブに目覚めた人々が集められており、教授ピッツバーグのもとで能力を極限まで伸ばす訓練が行われていた。
- ラーメン早食いで卒倒して覚醒した熊谷
- 高温の温泉に浸かるとセンシティブになる恵比寿
- 電気工事中の感電で覚醒した沼袋 など、クセの強いセンシティブ仲間が次々登場し、彼らもSilver Unicornの計画に巻き込まれていく。
大門の正体と最終決戦
一方で、友作の親友・大門十三は、実は内閣総理大臣直属の政府エージェントであり、Silver Unicornの動きを追っていたことが明かされる。
大門は友作を守るために奔走するが、敵との銃撃戦で弾丸を5発も受け瀕死の重傷を負い、それでもなお友作のために最後まで戦い続ける。
クライマックスでは、Silver Unicornが仕掛けたゲルニカ2002によるテロを阻止するため、友作と世界中のセンシティブたちが力を合わせる。
友作は自ら階段落ちや危険行為を繰り返しながらセンシティブ状態になり、敵側の本音や計画を読み取りつつ、仲間のセンシティブや政府側と連携して、化学兵器が使われる寸前で計画を潰す。
その過程では、要蔵も自分の欲と犬への愛情だけで動いていたわけではなく、どこかで「自分だけは安全でいたい」「家族や犬とだけ平和に暮らしたい」という小市民的な本音があったことが描かれ、要蔵もまた自分の選択と向き合わざるを得なくなる。
最終的にテロ計画は未然に防がれ、友作は文字通り「地球を救った男」として未来に語り継がれる存在となる。
最終回の結末と後日談(完全ネタバレ)
テロを阻止した功績により、友作は内閣総理大臣から「国民栄誉賞」を授与されることになるが、友作はそれを辞退する。
自分はヒーローではなく、ただ目の前の人を助けようとしていただけだという、友作らしい小心者で等身大の姿勢が最後まで貫かれる。
渋谷是広は、ずっと邪険に扱ってきたパブ店員・ハルミへの想いを認め、最終回でハルミと結婚する。
桜新町弘は、過去に命を救ってくれた女性・千石夏子への負い目をようやく乗り越え、白金愛子にプロポーズするという前向きな一歩を踏み出す。
しのぶも、自分のコンプレックスや歪んだ承認欲求と向き合ったことで、少しずつ素直さを取り戻し、周囲との関係も変化していく。
飯倉航介は相変わらず鈍感で、最後まで友作の能力の正体を理解しないままであるが、ナナカンの人間関係は以前よりも温かいものへと変わっていく。
物語の枠物語として、未来の科学者の子どもである教師ケッペルが、子どもたちに「昔、足立友作という男がいてね…」と、彼の活躍を“偉人伝”のように語るシーンが描かれる。
こうして、冴えないサラリーマンだった友作の物語は、未来の世界で「地球を救った伝説のあげちん男」として語り継がれる形で幕を閉じる。
内村光良が全スタント自ら遂行した体当たり演技
本作最大の見どころは、主演の内村光良による全編スタントダブルなしの階段落ちである。全11話で計20回の転落シーンを自ら演じ、第9話の50段階段落ちは当時の日本ドラマにおけるスタント記録だったと伝えられる。内村はもともとバラエティ番組『ウリナリ!!』のミュージカル企画でも大階段落ちに挑戦した実績があり、身体を使った笑いへの強いこだわりが本作でも遺憾なく発揮された。
作品の根底にあるテーマは「弱さの中にある強さ」だ。友作は能力を得ても本質的に臆病で小心な男のままであり、超能力で何でも解決するヒーローではない。心の声が聞こえるからこそ他者の痛みに気づき、自分の体を犠牲にしてでも助けようとする姿が、視聴者の共感を呼んだ。ウルトラマンへのオマージュや東京地名のキャラクター設定など、随所に散りばめられた遊び心と、中園ミホの洒脱な台詞回しが作品に軽やかさを与えている。
視聴率は低迷したがファンの熱意でDVD化が実現
平均視聴率は約9.7%と当時の連続ドラマとしてはやや苦戦した。
初回の12.4%から後半は8%台まで下がったものの、作品そのものの評価は視聴率とは裏腹に高い。ユーザーレビューサイトではallcinemaで7.6/10(224票)、Filmarksで★4.0/5(約100件のレビュー)と好評価を得ている。
放送終了後、一度も再放送されない「幻の作品」となったが、ファンがTBSに大量の葉書を送るDVD化リクエスト運動を展開した。その結果、放送終了から1年7ヶ月後の2004年4月にDVD-BOXが発売された。
なお、本作は2008年11月にTBSチャンネルHDで初めてハイビジョン放送された。本放送時点で地上デジタル放送の開始前だったにもかかわらず、制作段階からHD(ハイビジョン)撮影が行われていたことも特筆すべき点である。
結論──視聴率では測れなかった作品の力
内村光良の体当たりスタント、磯山晶×中園ミホという黄金タッグの制作力、哀川翔・古田新太らの芸達者な共演陣——これらが組み合わさった独特の痛快コメディは、放送から20年以上を経てもなおファンの記憶に強く刻まれている。
DVD化を実現させたファンの葉書運動は、この作品が数字以上の熱量を生んだ証左だろう。「弱い男が体を張って人を助ける」という普遍的テーマと、ウルトラマンオマージュや東京地名キャラクターという遊び心が共存する本作は、2000年代初頭の日本ドラマにおける隠れた佳作として再評価に値する。


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