カーボベルデ、スペインを止める|40歳の守護神に、いつの間にか心を持っていかれた夜

スペインが勝つのだろうと思っていた。

試合を見る前の正直な気持ちは、そこだった。相手はスペインである。2010年の世界王者であり、ヨーロッパの強豪であり、ボールを握らせたら世界でも屈指のチームである。対するカーボベルデは、ワールドカップ初出場の国。普通に考えれば、スペインがボールを持ち、どこかで崩し、最後は力の差を見せる。そういう試合になると思っていた。

ところが、そうはならなかった。

ワールドカップ2026グループH、スペイン対カーボベルデは0-0の引き分けに終わった。スコアだけを見れば、ゴールのない試合である。だが、退屈な0-0ではなかった。むしろ、時間が進むほどに、カーボベルデの守備に目が離せなくなる試合だった。

スペインは当然のようにボールを持った。

中盤でパスを回し、サイドを使い、ペナルティエリアの周辺まで何度も迫る。相手を押し込む時間は長かった。見慣れたスペインの試合である。ボールを動かし、相手を走らせ、どこかに小さな穴を作る。いつゴールが入っても不思議ではないように見えた。

出典:サッカーダイジェストWeb

けれど、カーボベルデは崩れなかった。

まず、守備の集中力が高かった。ラインを大きく乱さず、スペインの細かいパスに食いつきすぎない。シュートコースに体を投げ出し、最後の一歩をさぼらない。強豪に押し込まれる側のチームは、どこかで苦しくなって足が止まりやすい。だが、この日のカーボベルデには、時間が進んでも折れない芯のようなものがあった。

そして、その中心にいたのが、ゴールキーパーのヴォジーニャだった。

今年40歳の守護神である。

出典:FIFA公式

40歳でワールドカップの舞台に立ち、スペインの攻撃を受け続ける。その姿だけでも十分に物語がある。だが、ヴォジーニャはただ立っていただけではなかった。スペインの決定機に反応し、近い距離のシュートにも体を残し、最後までゴールを許さなかった。

出典:mezha.net

最初は、スペインがいつ点を取るかを見る試合のつもりだった。

だが、途中から少しずつ見方が変わっていった。スペインが攻めるたびに、「今度こそ入るか」と思う。けれど同時に、「カーボベルデ、もう少し耐えてくれ」とも思うようになった。気がつけば、スペインのゴールを待つのではなく、カーボベルデの守備があと何分持つのかを見守っていた。

こういうことが、ワールドカップにはある。

強いチームが強いサッカーを見せる試合も面白い。だが、それだけではない。小さな国が、大きな相手に食らいつく。誰もが劣勢だと思っていたチームが、必死に守り、わずかな可能性を抱えたまま時間を進めていく。そういう試合には、理屈を超えて心を持っていかれる瞬間がある。

出典:日本経済新聞

カーボベルデは、ただ守っていただけではない。

もちろん守備の時間は長かった。だが、チーム全体が怖がっているようには見えなかった。奪った後には前へ出ようとしたし、スペインに完全に飲み込まれることはなかった。初出場国が、初めてのワールドカップで、相手がスペインで、それでも90分間を自分たちの試合として戦い切った。

それは簡単なことではない。

スペインにとっては、痛い引き分けである。

ボールを持ち、チャンスを作り、勝たなければならない試合だったはずだ。グループHにはウルグアイ、サウジアラビアもいる。初戦で勝ち点3を取れなかったことは、今後の戦いに重さを残す。スペインの選手たちからすれば、内容以前に結果が足りない試合だっただろう。

出典:Yahoo!ニュース – Yahoo! JAPAN

ただ、この試合をカーボベルデ側から見ると、まったく違う景色になる。

初出場のワールドカップ。相手はスペイン。誰もがスペインの圧勝を予想していたかもしれない。そこで0-0。勝利ではない。だが、国のサッカー史に残る勝ち点1である。試合終了の瞬間、カーボベルデの選手たちが見せた表情には、ただの引き分け以上のものがあった。

出典:東京新聞

特にヴォジーニャの姿は忘れにくい。

40歳という年齢は、サッカー選手としてはベテランを超えた領域である。その選手が、ワールドカップの初戦でスペインを無失点に抑える。派手なゴールを決めたわけではない。だが、ゴールを守るという仕事だけで、これほど人の心を動かすことがあるのだと思った。

出典:FOOTBALL ZONE

試合前は、スペインがどれだけ点を取るかを見るつもりだった。

試合が終わる頃には、カーボベルデが最後まで守り切ったことに、素直に拍手したくなっていた。いつの間にか、カーボベルデを応援していたのである。

0-0。

スコアだけなら何も起きなかったように見える。しかし、実際には大きなことが起きていた。スペインは勝てなかった。カーボベルデは倒れなかった。そして40歳のゴールキーパーは、ワールドカップの舞台で、国の記憶に残る夜を作った。

こういう試合があるから、ワールドカップは面白い。

強い国が勝つだけではない。知らなかった国の名前が、ある夜を境に忘れられなくなる。カーボベルデという国と、ヴォジーニャという守護神。スペインを止めたこの0-0は、今大会の序盤に残る、静かで大きな驚きだった。

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