グループHでは、スペイン、カーボベルデ、サウジアラビア、ウルグアイを見てきた。2010年王者のスペイン、初出場のカーボベルデ、奇跡を知るサウジアラビア、そして1930年から続くウルグアイの空色。それぞれが、ワールドカップという大会に違う時間を持ち込んでいた。
ここからはグループIに入る。
最初に取り上げるのは、フランス代表である。
フランスは、いまの世界サッカーにおいて最も重い存在のひとつである。単に選手がそろっているというだけではない。1998年に初優勝し、2018年に再び世界を制し、2022年には決勝まで進んだ。近年のワールドカップを語るとき、フランスの名前を避けて通ることはできない。
レ・ブルー。青いユニフォームの代表は、もはや「強豪」という言葉だけでは収まらない。世界の頂点を知り、頂点に届かなかった悔しさも知る国である。
フランス代表 基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 国名 | フランス共和国 |
| 代表チーム | フランス代表 |
| 愛称 | レ・ブルー |
| 大陸連盟 | UEFA |
| ワールドカップ出場 | 17回目 |
| ワールドカップ最高成績 | 優勝(1998年、2018年) |
| 監督 | ディディエ・デシャン |
| 注目選手 | キリアン・ムバッペ、ウスマン・デンベレ、アントワーヌ・グリーズマン、オーレリアン・チュアメニ、ウィリアム・サリバ、マイク・メニャン など |
| グループIの相手 | セネガル、イラク、ノルウェー |
1998年、フランスがひとつになった夏
フランス代表を語るとき、まず思い出すのは1998年である。
自国開催のワールドカップ。サン=ドニのスタッド・ド・フランス。決勝の相手はブラジル。ジネディーヌ・ジダンがヘディングで2点を決め、フランスは初めて世界王者になった。
出典:サッカーマガジンWEB
あの優勝は、サッカーの勝利であると同時に、フランス社会そのものを映す出来事でもあった。ジダン、デシャン、テュラム、デサイー、プティ、バルテズ。さまざまな背景を持つ選手たちが、ひとつのチームとして頂点へ立った。
「ブラック・ブラン・ブール」という言葉とともに、1998年のフランス代表は語られた。もちろん、サッカーが社会の問題をすべて解決するわけではない。それでも、あの夏のフランスには、国がひとつになったような高揚感があった。
その中心にいたのが、キャプテンのディディエ・デシャンである。
出典:Entrevue
派手な司令塔ではない。観客を沸かせるドリブラーでもない。だが、チームを整え、勝つために必要なことを知る選手だった。後年、彼が監督として再びフランスを世界王者へ導くことを思えば、1998年の優勝は、ひとつの始まりでもあった。
2018年、ムバッペの速度が世界を変えた
20年後、フランスはロシア大会で再び世界を制した。
2018年のチームは、1998年とは違う顔を持っていた。若さ、速さ、フィジカル、組織力。そこに、デシャン監督らしい現実的な勝負強さが加わっていた。
中心にいたのは、キリアン・ムバッペである。
KAZAN, RUSSIA – JUNE 30: Kylian Mbappe of France celebrates after scoring his team’s third goal during the 2018 FIFA World Cup Russia Round of 16 match between France and Argentina at Kazan Arena on June 30, 2018 in Kazan, Russia.
出典:サッカーキング
まだ若かった彼は、アルゼンチン戦で世界中に衝撃を与えた。あのスピードは、単なる足の速さではなかった。相手の守備を一瞬で過去にするような、時代そのものを前へ進める速さだった。
グリーズマン、ポグバ、カンテ、ヴァラン、ロリス、ジルー。2018年のフランスには、攻守にバランスの取れた選手たちがそろっていた。華やかさだけでなく、試合を勝ち切る堅さがあった。
決勝ではクロアチアを破り、フランスは2度目の世界王者となった。
出典:Goal.com
1998年に選手としてトロフィーを掲げたデシャンが、2018年には監督として同じ頂点へ立った。これは、フランスサッカーにとって特別な円環であった。
2022年、敗れてなお残った強さ
2022年カタール大会のフランスは、連覇を目指していた。
ワールドカップ連覇は簡単ではない。多くの強豪国がその難しさを味わってきた。前回王者として研究され、期待され、少しのつまずきも大きく見られる。さらにフランスは、大会前から負傷者にも悩まされた。
それでも、フランスは決勝まで進んだ。
決勝の相手はアルゼンチン。リオネル・メッシの大会であり、同時にムバッペの大会でもあった。試合は歴史的な激闘となり、ムバッペは決勝でハットトリックを達成した。だが、PK戦の末にフランスは敗れた。
出典:デイリースポーツ
あの試合は、敗戦でありながら、フランスの強さを改めて示した試合でもあった。
普通なら、完全にアルゼンチンの流れで終わってもおかしくなかった。だが、フランスはそこから戻ってきた。ムバッペの一撃で試合を変え、延長戦でも食らいついた。最後は届かなかったが、王者の底力は十分に見せた。
ワールドカップの記憶には、勝者だけでなく、敗者の姿も残る。2022年のフランスは、敗れた側でありながら、世界中の記憶に残ったチームである。
デシャンの長い時代
フランス代表の近年を語るうえで、ディディエ・デシャン監督の存在は欠かせない。
出典:FIFA公式
彼は2012年からフランス代表を率いている。代表監督としては非常に長い時間である。その間に、EURO2016準優勝、2018年ワールドカップ優勝、2022年ワールドカップ準優勝を経験してきた。
デシャンのチームは、常に美しいと言われるわけではない。時には慎重すぎると言われる。もっと攻撃的にできるのではないか、もっと華やかにできるのではないか。そういう声もある。
だが、彼のチームは勝つ。
トーナメントで勝つために必要な現実感を持っている。相手に合わせ、試合の流れを読み、無理に理想を追いすぎない。フランスほど才能のある国なら、攻撃的な夢だけを見たくなる。しかし、デシャンはその夢を、勝利の形へ落とし込むことを優先してきた。
2026年大会は、そのデシャン時代の大きな区切りになる。彼は大会後に退任する予定であり、レ・ブルーにとっては、長く続いた時代の最後のワールドカップでもある。
これは選手たちにとっても、特別な意味を持つはずである。
もう一度、デシャンと頂点へ。そう考える選手も多いだろう。2018年の記憶を知る選手にとっては、監督への恩返しの大会でもある。新しい世代にとっては、自分たちが次のフランスを背負うことを示す大会でもある。
ムバッペという中心
2026年のフランス代表で、最も大きな名前はやはりキリアン・ムバッペである。
出典:クーリエ・ジャポン
2018年に若きスターとして現れ、2022年には決勝でハットトリックを決め、いまは代表の主将として大会に臨む。彼の存在は、フランス代表の攻撃の中心であり、同時に国民の期待の中心でもある。
ムバッペには、常に何かを起こす気配がある。
スピードで相手を置き去りにする。少ないスペースからシュートまで持ち込む。試合の流れが重いときでも、一瞬で景色を変える。ワールドカップのような大会では、こういう選手の存在が試合の意味を変える。
ただし、ムバッペの大会は、個人の大会ではない。
フランスが本当に頂点へ戻るには、周囲の支えが必要である。ウスマン・デンベレの突破、グリーズマンの判断、チュアメニの中盤、サリバやウパメカノの守備、メニャンの安定感。チーム全体が整ってこそ、ムバッペの力は最大になる。
フランスの恐ろしさは、ムバッペだけではないところにある。ベンチにも、若い選手にも、次々と才能がいる。国全体が選手を生み出し続ける。その層の厚さは、現在の世界サッカーでも屈指である。
グリーズマン、カンテ、そして世代の橋渡し
フランス代表には、若さだけではない味わいがある。
アントワーヌ・グリーズマンは、その象徴である。彼は派手なストライカーとしてだけではなく、チームのつなぎ役として長くフランスを支えてきた。攻撃のアイデアを出し、守備にも戻り、試合の中で必要な場所に顔を出す。
出典:Goal.com
2018年の優勝を知る選手として、彼の存在は大きい。ムバッペのような圧倒的な個の力とは違うが、グリーズマンにはチームを滑らかにする力がある。
そしてエンゴロ・カンテも、フランスの記憶を呼び起こす存在である。2018年の優勝を支えた彼が、2026年のメンバーにも名を連ねることには、ひとつの感慨がある。かつて中盤を走り回り、相手の攻撃の芽を摘み続けた選手が、再び世界大会へ向かう。
出典:FOOTBALL ZONE
もちろん、時代は変わっている。チュアメニ、カマヴィンガ、ラビオ、ザイール=エメリ、オリーセ、アクリウシュ、バルコラのような選手たちが、次のフランスを形作っていく。若く、技術があり、強度もある。
フランスは、世代交代をしながら弱くならない国である。これは簡単なことではない。名選手が去れば普通は穴が空く。しかしフランスの場合、その穴からまた別の才能が出てくる。
それが、レ・ブルーの現在の強さである。
グループIの相手たち
フランスが入ったグループIには、セネガル、イラク、ノルウェーがいる。
まず注目されるのは、セネガル戦である。フランスとセネガルと聞けば、2002年日韓大会の開幕戦を思い出す人も多いだろう。前回王者だったフランスが、初出場のセネガルに敗れた試合である。あの1-0は、ワールドカップ史に残る番狂わせのひとつだった。

2026年のセネガルも、決して簡単な相手ではない。アフリカを代表する強豪であり、身体能力、守備力、個の力を備えている。フランスにとって、初戦から集中力を問われる相手になる。
イラクは、アジアから来る挑戦者である。1986年以来の本大会出場となれば、国にとって大きな意味を持つ大会になる。フランスがボールを持つ時間は長くなるかもしれないが、ワールドカップで初戦や第2戦に現れる独特の緊張感を考えれば、油断はできない。

そしてノルウェーである。ノルウェーには、アーリング・ハーランドという巨大な存在がいる。フランスのような強豪であっても、彼を一瞬でも自由にすれば失点につながる。さらにマルティン・ウーデゴールのような創造的な選手もいる。グループIの中で、フランスにとって最も危険な相手のひとつになるだろう。

フランスは当然、グループ突破を求められる国である。だが、この組は決して楽ではない。セネガルの記憶、イラクの熱、ノルウェーの得点力。それぞれが違う難しさを持っている。
強豪だから勝てる、というほどワールドカップは単純ではない。
フランスが背負うもの
出典:FIFA公式
フランス代表には、常に期待がある。
それは、選手層の厚さゆえでもある。ムバッペがいる。デンベレがいる。グリーズマンがいる。チュアメニ、カマヴィンガ、サリバ、メニャンがいる。名前を見れば、世界のどの国も羨むような陣容である。
だが、期待は重さにもなる。
フランスは、優勝候補として大会に入る。ベスト8で満足される国ではない。準決勝でも、場合によっては物足りないと言われるかもしれない。2018年に優勝し、2022年に決勝へ進んだ国だからこそ、基準が高い。
その高い基準の中で戦うことが、フランス代表の宿命である。
また、フランス代表はサッカーだけでなく、国の多様性や社会の空気も背負ってきたチームである。1998年の優勝がそうだったように、フランス代表はしばしば「フランスとは何か」という問いと結びつけられる。
それは選手たちにとって簡単なことではない。ピッチ上の結果だけでなく、外からの視線も強い。特にムバッペのような存在は、サッカー選手であると同時に、社会的な発言をする人物としても見られている。
しかし、それもまた現代のフランス代表の一部である。レ・ブルーは、単なるサッカーチームではない。時代ごとのフランスの姿を映してきた代表でもある。
デシャン最後の大会へ
2026年大会は、デシャンにとって最後のワールドカップになる。
選手として1998年を制し、監督として2018年を制し、2022年にはあと一歩まで進んだ人物が、最後にもう一度頂点を目指す。これだけで、ひとつの物語になる。
フランス代表は、過去を十分に持っている。1998年のジダン。2018年のムバッペ。2022年の激闘。そして2026年、デシャン最後の航海。
だが、彼らが目指すのは思い出作りではない。
もう一度、勝つことである。
フランスは美しい物語を持つ国だが、その物語は勝利によって強く刻まれてきた。1998年も、2018年も、最後にトロフィーを掲げたからこそ、記憶になった。
出典:FIFA公式
2026年も同じである。
青いユニフォームが北米のピッチに立つとき、そこには過去の栄光と現在の才能、そして終わりゆく監督時代の静かな重みがある。
フランス代表は、今回も優勝候補である。
だが、その言葉の奥には、簡単には語れない時間がある。1998年から続く青の記憶、2018年の歓喜、2022年の悔しさ。そしてデシャン最後の大会。
レ・ブルーは、もう一度世界の頂点へ向かう。その旅は、グループIのセネガル戦から始まる。












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