グループEでは、ドイツ、キュラソー、コートジボワール、エクアドルと見てきた。
ワールドカップを4度制したドイツの重み。
小さな島から初めて世界へ出るキュラソーの青い波。
アフリカの象徴として帰ってきたコートジボワールの記憶。
そして、南米予選を粘り抜いてきたエクアドルの足音。
そこから、シリーズはグループFへ移る。
最初に登場するのは、オランダ代表である。
オランダと聞くと、やはりまず思い浮かぶのは、あの鮮やかなオレンジ色のユニフォームである。国旗は赤、白、青なのに、代表チームはオレンジをまとう。サッカーをそこまで詳しく知らなくても、「オレンジ軍団」という言葉には聞き覚えがある人も多いだろう。
明るく、華やかで、どこか誇り高い。
それでいて、ワールドカップの歴史を振り返ると、そこには少し切ない響きもある。
オランダは、ワールドカップで3度準優勝している。
しかし、まだ一度も優勝していない。
この事実こそが、オランダ代表というチームの物語を特別なものにしている。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 国名 | オランダ |
| 代表チームの愛称 | オラニエ、オレンジ軍団 |
| 大陸連盟 | UEFA |
| ワールドカップ出場 | 12回目 |
| ワールドカップ最高成績 | 準優勝3回(1974年、1978年、2010年) |
| 2022年カタール大会 | ベスト8 |
| 2026年大会予選 | 欧州予選グループGを首位通過 |
| 監督 | ロナルド・クーマン |
| グループFの相手 | 日本、スウェーデン、チュニジア |
優勝していない強豪国
オランダ代表を語る時、「強豪」という言葉に違和感はない。
ヨーロッパのサッカー大国であり、名選手を何人も生み出してきた。クラブサッカーでも、アヤックス、PSV、フェイエノールトといった名前は、欧州の歴史の中で大きな存在感を持っている。代表チームも、ワールドカップや欧州選手権で何度も世界を驚かせてきた。
それでも、ワールドカップ優勝はまだない。
この「まだ」という言葉が、オランダ代表にはずっとついて回る。
ブラジルやドイツ、アルゼンチンのように、優勝回数で語られる国ではない。だが、サッカーの記憶という面では、オランダは間違いなく世界の中心にいた。勝った国だけが歴史を作るわけではない。敗れてなお、語り継がれるチームがある。
オランダは、まさにその代表的な国である。
クライフとトータルフットボールの衝撃
オランダ代表の記憶をたどると、どうしても1970年代に行き着く。
中心にいたのは、ヨハン・クライフである。
そして、そのチームを語る言葉として残っているのが「トータルフットボール」だ。
出典:Esquire
選手が固定されたポジションに縛られず、全員が動き、全員が関わり、チーム全体でピッチを支配する。いまのサッカーでは当たり前のように聞こえる部分もあるが、当時の衝撃は大きかったはずである。
1974年の西ドイツ大会で、オランダは決勝へ進んだ。
しかし、開催国の西ドイツに敗れた。
1978年のアルゼンチン大会でも、オランダは決勝へ進んだ。
だが、今度はアルゼンチンに敗れた。
2大会連続の準優勝。
これだけを数字で見ると、あと一歩届かなかった国、という印象になる。
しかし、1970年代のオランダ代表は、単に「負けたチーム」として記憶されているわけではない。むしろ、サッカーの考え方そのものを変えたチームとして語られている。
優勝していないのに、歴史に残った。
そこに、オランダ代表の不思議な魅力がある。
2010年、三度目の決勝
オランダが再びワールドカップ決勝へ進んだのは、2010年南アフリカ大会だった。
この大会のオランダには、アリエン・ロッベン、ウェズレイ・スナイデル、ロビン・ファン・ペルシーといった選手たちがいた。1970年代のような理想主義的な美しさだけではなく、勝つための強さ、現実的なしたたかさも持っていたチームだった。
出典:note
決勝の相手はスペイン。
試合は延長までもつれ、最後はアンドレス・イニエスタのゴールでスペインが勝った。
オランダは、またしても準優勝だった。
出典:時事通信
この試合で、ロッベンが抜け出した場面を覚えている人も多いだろう。あの瞬間、オランダが初優勝に手をかけたようにも見えた。ほんの少しの差で、歴史は変わらなかった。
三度目の決勝。
三度目の準優勝。
「強いのに届かない」という言葉が、これほど似合ってしまう国も少ない。
2022年、アルゼンチンとの激闘
2022年カタール大会でも、オランダは強い印象を残した。
準々決勝の相手はアルゼンチン。
この試合は、ワールドカップらしい熱量に満ちていた。激しく、荒く、感情がむき出しになり、最後まで何が起こるかわからない試合だった。
オランダは終盤に追いついた。
特に、アディショナルタイムの同点ゴールは鮮烈だった。フリーキックから意表を突く形でゴールを奪い、試合を延長へ持ち込んだのである。
しかし、PK戦で敗れた。
勝ち上がったアルゼンチンは、その後、優勝までたどり着いた。
オランダはまたしても、世界王者へ向かう国の前に立ちはだかりながら、最後には退くことになった。
出典:FIFA公式
オランダのワールドカップ史には、こういう場面が多い。
優勝国を苦しめる。
決勝まで行く。
世界を驚かせる。
それでも、最後の一歩だけが遠い。
今のオランダ代表にある期待
2026年大会のオランダ代表を率いるのは、ロナルド・クーマンである。
出典:FOOTBALL ZONE
クーマンは、選手としてもオランダ代表の歴史を知る人物であり、監督としてもこの国の重みを背負っている。オランダというチームが、ただ勝てばいいだけの国ではないことも、よくわかっているはずである。
現在のチームには、フィルジル・ファン・ダイクという大きな柱がいる。
リバプールで長くトップレベルを戦ってきたセンターバックであり、代表でも精神的支柱となる存在である。後方にファン・ダイクがいるだけで、チームには落ち着きが生まれる。
出典:theWORLD(ザ・ワールド)
デンゼル・ダンフリースのように、サイドから力強く前へ出ていく選手もいる。中盤や前線にも、欧州の主要リーグで経験を積む選手たちがそろっている。
出典:ゲキサカ
ただし、オランダは名前だけで勝つ国ではない。
むしろ、名前があるからこそ難しい。
周囲は常に期待する。
オランダなら面白いサッカーをしてくれるはずだ。
オランダなら上まで行くはずだ。
オランダなら、今度こそ優勝するかもしれない。
その期待は、力にもなるが、重荷にもなる。
グループFで待つ日本、スウェーデン、チュニジア
グループFでオランダが対戦するのは、日本、スウェーデン、チュニジアである。
日本との対戦は、日本の読者にとって特に気になるカードだろう。
日本とオランダは、2010年南アフリカ大会でも同じグループに入っている。その時は、スナイデルのゴールでオランダが1-0で勝った。日本もよく粘ったが、オランダの一撃に屈した試合だった。
出典:JFA
あれから日本代表も大きく変わった。
欧州でプレーする選手が増え、強豪国に対しても、ただ耐えるだけのチームではなくなった。オランダにとっても、日本は簡単に勝てる相手ではない。

スウェーデンは、北欧らしい堅さと粘りを持つ国である。
派手さだけでなく、組織力、体格、精神力で勝負してくる。オランダがボールを持つ時間が長くなったとしても、簡単には崩れない相手になるだろう。

チュニジアも侮れない。
アフリカ勢らしい強さに加え、ワールドカップでの経験もある。守備を固め、少ないチャンスを生かす展開になれば、オランダにとって厄介な試合になる。

グループFでは、オランダが中心に置かれるのは間違いない。
しかし、中心に置かれるということは、楽な立場という意味ではない。日本、スウェーデン、チュニジアはいずれも、オランダを基準に準備してくる。
強豪であることは、常に狙われる立場でもある。
オレンジ色が背負うもの
オランダ代表のユニフォームがピッチに現れると、それだけでワールドカップらしさが増す。
あのオレンジ色には、単なる国の色以上のものがある。
クライフの時代の記憶。
トータルフットボールの理想。
1974年と1978年の準優勝。
2010年の決勝で届かなかった一歩。
2022年のアルゼンチン戦で見せた執念。
それらが、すべて重なっている。
ワールドカップで優勝したことがないのに、これほど語られる国は多くない。
それは、オランダが勝敗だけでは測れないものを残してきたからである。
ただ、選手たちにとっては、もう「美しい敗者」と呼ばれたいわけではないはずだ。
記憶に残るだけではなく、今度こそ結果を残したい。
オランダ代表の2026年大会には、そういう静かな覚悟があるように見える。
未完の物語は続く
オランダ代表は、強豪である。
だが、まだワールドカップを掲げていない。
この事実は、重い。
同時に、それがオランダ代表の物語を深くしている。
もし2026年にオランダが頂点へ近づくなら、それは単なる初優勝への挑戦ではない。1974年、1978年、2010年、そして2022年の記憶を連れて進む旅になる。
グループFの初戦から、オランダは注目されるだろう。
日本、スウェーデン、チュニジアを相手に、オレンジ軍団がどのような戦いを見せるのか。
まだ届いていない頂点へ。
オランダ代表の長い物語は、北米のピッチでまた新しい章を迎える。
そのオレンジ色が、今度はどこまで鮮やかに残るのか。
静かに見届けたい。









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