準々決勝の最後の一枚が、カンザスシティでめくられた。
アルゼンチンとスイス。片方は前回王者であり、メッシを中心にもう一度頂点へ向かう国である。もう片方は、長く大きな大会の終盤で壁に跳ね返されてきた国である。スイスにとって、この準々決勝はただの一試合ではなかった。1954年以来となるワールドカップ準々決勝の舞台であり、歴史の続きを書くための夜だった。
結果は、アルゼンチン 3-1 スイス。
ただし、90分で決まった試合ではない。延長戦までもつれ、スイスが10人になり、それでも長い時間、アルゼンチンを苦しめた。その末に、延長後半の2点でアルゼンチンが突き放した。
試合は早い時間に動いた。
出典:FIFA公式
10分、アルゼンチンが先制する。メッシのコーナーキックから、アレクシス・マック・アリスターが頭で決めた。メッシにとっては、ワールドカップ通算10アシスト目となる一つの節目でもあった。得点者はマック・アリスターだが、そこに至るまでの呼吸を作ったのは、やはりメッシである。
先制したアルゼンチンは、いつものように試合を握ろうとした。
だが、スイスは簡単には沈まなかった。グラニト・ジャカを中心に中盤で踏みとどまり、守るだけでなく、前へ出る時間を探した。スイスというチームには、派手さよりも粘りがある。大きな波ではないが、岩に染み込む水のように、少しずつ相手を疲れさせる。
その粘りが形になったのは67分である。
ダン・エンドイェが決め、スイスが1-1に追いついた。前回王者を相手に、準々決勝で追いつく。しかも相手はアルゼンチンである。スイスの選手たちにとっても、スタンドのスイスの人々にとっても、この同点弾は大きな意味を持っていたはずだ。
このままいけば、試合はさらに面白くなる。
そう思った矢先に、流れを大きく変える場面が起きた。72分、ブリール・エンボロが退場となる。シミュレーションと判断され、VAR確認を経てレッドカードが示された。スイス側にとっては、納得しがたい判定だっただろう。
出典:ライブドアニュース – Livedoor
準々決勝という舞台で、同点に追いついた直後に10人になる。その重さは、外から見ている以上に大きい。
それでも、スイスは崩れなかった。
アルゼンチンが数的優位を得ても、すぐに試合を決められたわけではない。スイスはラインを整え、体を張り、時間を削った。もう一度前へ出る余力は限られていたかもしれない。それでも、90分の終わりまで1-1を保った。ワールドカップの準々決勝で、10人になっても前回王者を延長戦へ引きずり込んだのである。
ここに、スイスの誇りがあった。
延長戦に入ると、少しずつアルゼンチンの厚みが効き始める。1人多いという事実は、時間が進むほど重くなる。足が止まり始めた相手に、もう一度ギアを上げられる選手がいる。アルゼンチンには、その力があった。
112分、フリアン・アルバレスが決める。
遠めの位置から放たれた一撃が、試合の扉をこじ開けた。スイスが作っていた我慢の壁に、ようやく穴が開いた瞬間だった。
出典:サッカーダイジェストWeb
アルゼンチンにとっては待ち続けた勝ち越し点。スイスにとっては、あと少しの時間が急に遠くなる失点である。
そして120+1分、ラウタロ・マルティネスが3点目を決める。
このゴールで試合は決まった。長く続いていた緊張の糸が、最後に切れた。アルゼンチンは3-1で準決勝へ進む。相手はイングランドである。ノルウェーを延長戦で下したイングランドと、前回王者アルゼンチン。準決勝には、また別の歴史が待っている。
それにしても、スイスはよく戦った。
退場がなければ、という思いは残る。あの判定が試合の形を変えたことは否定しにくい。しかし、敗れた理由をそれだけに閉じ込めてしまうのも、少し違う気がする。スイスは追いついた。10人になっても耐えた。延長後半まで前回王者を苦しめた。それは、胸を張ってよい戦いである。
スイスが去る。
その背中には、悔しさがある。だが、同時に重みもある。1954年以来となる準々決勝で、アルゼンチンを相手に延長戦まで持ち込んだ。PK戦までは届かなかった。準決勝には行けなかった。それでも、この夜のスイスは、ただ敗者として消えたわけではない。
アルゼンチンは進む。
メッシのコーナーから始まり、マック・アリスターが決め、アルバレスが延長に風穴を開け、ラウタロが締めた。前回王者は、苦しい試合でも最後に勝つ。軽やかに勝ったわけではない。だが、勝った。大会の終盤では、その事実が何より重い。
次はイングランドである。
アルゼンチンとイングランド。この名前が並ぶだけで、サッカーの記憶が勝手に騒ぎ出す。だが、今ここにあるのは2026年の準決勝である。メッシのアルゼンチンと、ベリンガムのイングランドが向かい合う。古い因縁の上に、新しい物語が乗る。
ベスト8からベスト4へ。
これで準決勝のカードがそろった。フランス対スペイン、イングランド対アルゼンチン。大会はもう、最後の数ページに入っている。
スイスはそのページの手前で本を閉じる。だが、そのしおりには確かに記録が残った。前回王者を苦しめた夜。10人でも耐えた時間。あと少しで届きそうだった場所。
敗れたからといって、そこまでの歩みまで消えるわけではない。
アルゼンチンが進み、スイスが去る。その境目には、延長112分の一撃と、120+1分の終止符があったのである。
主な事実確認メモ
- 試合結果:アルゼンチン 3-1 スイス
- 大会:ワールドカップ2026 準々決勝
- 試合会場:カンザスシティ・スタジアム
- 試合は延長戦へ突入
- 得点者:アレクシス・マック・アリスター(10分)、ダン・エンドイェ(67分)、フリアン・アルバレス(112分)、ラウタロ・マルティネス(120+1分)
- メッシはマック・アリスターの先制点をコーナーキックからアシスト。ワールドカップ通算10アシスト目と報じられた
- スイスは72分、ブリール・エンボロがシミュレーション判定で退場。VAR確認後のレッドカード
- アルゼンチンが準決勝進出
- 準決勝の相手:イングランド
- PK戦なし
- スイスは1954年以来となるワールドカップ準々決勝だった




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