強いのに届かない国、メキシコ代表――ワールドカップ2026出場国紹介・第1回

サッカーのワールドカップ2026が始まる。

今回の大会は、カナダ、メキシコ、アメリカの3か国共催で行われる。出場国は全部で48チーム。これまでよりも参加国が増え、世界中のさまざまな国が、この大きな大会に集まってくる。

出典:FIFA公式

せっかくなので、このブログでもワールドカップ2026に出場する全48チームを、少しずつ紹介していきたいと思う。

専門家のような戦術分析はできない。選手の細かなコンディションや最新のフォーメーションまで、すべてを追いかけられるわけでもない。ただ、ワールドカップに出る国には、それぞれの歴史があり、期待があり、悔しさがある。そういうものを、サッカーをあまり詳しく知らない人にも分かるように、できるだけやさしく書いていきたい。


その第1回目に取り上げるのは、メキシコ代表である。

メキシコは、2026年大会の開催国のひとつである。カナダ、アメリカとともに大会を迎える側であり、しかも開幕戦を戦う国でもある。グループAに入り、南アフリカ、韓国、チェコと同じ組になった。

まず、基本情報を整理しておきたい。

項目内容
国名メキシコ
愛称エル・トリ
2026年大会開催国として出場
グループA組
対戦相手南アフリカ、韓国、チェコ
監督ハビエル・アギーレ
W杯最高成績ベスト8
最高成績の大会1970年大会、1986年大会
W杯最多出場選手ラファエル・マルケス
W杯最多得点選手ルイス・エルナンデス、ハビエル・エルナンデス

メキシコ代表をひと言で表すなら、私は「強いのに、あと一歩届かない国」と言いたくなる。

カタール2022
出典:FIFA公式

ワールドカップにおけるメキシコは、決して弱い国ではない。むしろ、いつも本大会にいる印象がある。ブラジルやアルゼンチン、ドイツ、フランスのように、毎回優勝候補の筆頭として語られる国ではないかもしれない。しかし、ワールドカップが始まると、メキシコはだいたいそこにいる。

これは簡単なことではない。

世界中の国がワールドカップを目指す中で、何度も本大会に出場し続けること。それだけでも、十分に強い国である。けれど、メキシコにはもうひとつの印象がある。

それは、勝ち上がりそうで、最後までは残れないという印象である。

出典:FIFA公式

メキシコのワールドカップ最高成績はベスト8である。しかも、そのベスト8はいずれも自国開催の大会だった。1970年のメキシコ大会、そして1986年のメキシコ大会である。

1970年大会といえば、ペレを擁するブラジルが優勝した大会であり、1986年大会といえば、マラドーナのアルゼンチンが優勝した大会である。サッカー史に残る偉大な大会の舞台を、メキシコは二度も用意してきた。

けれど、その二度の自国開催でも、メキシコはベスト8までだった。

もちろん、ベスト8は立派な成績である。世界の8強に入るのだから、簡単なことではない。しかし、開催国として熱狂的な声援を受けながらも、準決勝には届かなかった。その「届かなさ」が、メキシコ代表の歴史にはどこか影のようについている。


メキシコ代表には、ラファエル・マルケスという象徴的な選手がいる。

マルケスは、ワールドカップでメキシコ代表として最多出場を記録した選手である。バルセロナでも活躍した名ディフェンダーで、代表では長く中心選手としてチームを支えた。派手なゴールを決めるスターというより、後ろからチームを整える選手だった。

出典:FIFA公式

こういう選手がいる国は強い。

サッカーは、点を取る選手ばかりが目立つ。しかし、本当に長く戦うチームには、守備をまとめる選手、空気を引き締める選手、チームの背骨になる選手が必要である。マルケスは、まさにそういう存在だったのだと思う。


得点者としては、ルイス・エルナンデスとハビエル・エルナンデスの名前が挙がる。

ルイス・エルナンデスは、長髪が印象的なストライカーで、1998年フランス大会で活躍した。ハビエル・エルナンデスは「チチャリート」の愛称で知られ、マンチェスター・ユナイテッドなどでもプレーした選手である。どちらも、メキシコ代表の攻撃を語るうえで欠かせない名前だ。

出典:FIFA公式

ただ、こうした名選手がいても、メキシコはワールドカップで最後の最後まで残る国にはなれなかった。

そこが面白い。

メキシコ代表は、グループリーグであっさり消えてしまう弱小国ではない。かといって、優勝候補として大会の中心に座り続ける国でもない。毎回のように現れて、強さを見せる。相手にとっては嫌なチームであり、観客にとっては馴染みのあるチームである。けれど、気がつくと大会の途中で姿を消している。

この感じは、どこか人生にも似ている。

続けている。努力している。一定の場所までは行ける。周りから見れば十分に立派である。それでも、自分の中では「もう少し先に行きたかった」という思いが残る。

メキシコ代表のワールドカップには、そういう切なさがある。

2026年大会は、メキシコにとって特別な大会である。

まず、開催国である。地元の声援を受けて戦うことができる。開幕戦から登場するということは、世界中の視線がいきなりメキシコに集まるということでもある。

しかも、その開幕戦の相手は南アフリカである。

南アフリカとメキシコといえば、2010年南アフリカ大会の開幕戦でも対戦している。そのときは、開催国南アフリカとメキシコが1対1で引き分けた。大会の幕開けとして、とても印象に残る試合だった。

2026年は、そのカードが今度はメキシコで行われる。

こういう巡り合わせは、ワールドカップらしい。単なる偶然かもしれない。しかし、長く大会を見ていると、こういう偶然に少し心が動く。昔見た試合の記憶が、別の大会でまた戻ってくる。ワールドカップは、4年ごとの大会でありながら、過去の記憶を何度も呼び戻す大会でもある。

メキシコが入ったグループAは、簡単な組ではない。

相手は南アフリカ、韓国、チェコである。

南アフリカは、2010年大会の開催国として記憶に残る国である。韓国は、アジアの強豪であり、日本にとってもおなじみの相手である。チェコは、欧州の伝統を持つ国で、派手ではなくても簡単には崩れない印象がある。

メキシコは開催国として、この組を突破しなければならない。

開催国には、独特の難しさがある。応援は力になる。しかし、期待は重圧にもなる。勝って当たり前と思われる試合ほど、難しいものはない。地元の大声援の中で、選手たちは背中を押される一方で、逃げ場のない緊張も感じるはずである。

その中でメキシコがどこまで進めるのか。

これは、2026年大会の大きな見どころのひとつだと思う。

監督はハビエル・アギーレである。

日本代表の監督を務めたこともあるので、日本のサッカーファンにも名前を知っている人は多いかもしれない。メキシコ代表を率いるのはこれが初めてではなく、過去にもワールドカップでチームを指揮している。経験のある監督が、開催国としての大きな大会に戻ってきた形である。

出典:FIFA公式

経験はある。歴史もある。選手もいる。地元の声援もある。

それでも、メキシコには「あと一歩届かない」というイメージが残っている。

だからこそ、2026年のメキシコ代表は気になる。

もし、メキシコがこの大会でベスト8を超えることができれば、それは大きな歴史になる。1970年、1986年と同じく自国開催でベスト8に進むだけでも十分に盛り上がるだろう。しかし、メキシコが本当に求めているのは、その先なのかもしれない。

ベスト8の壁を越えること。

準決勝に進むこと。

「いつも強いけれど、最後までは届かない国」という印象を変えること。

ワールドカップには、優勝候補の物語がある。ブラジルがどうなるか、アルゼンチンが連覇を狙えるのか、フランスやイングランドが勝ち切れるのか。そういう話題は分かりやすい。

けれど、メキシコ代表のような国を見る楽しみもある。

圧倒的な主役ではない。けれど、大会から欠かすことのできない存在である。いつもそこにいる。何度も挑んできた。悔しさも知っている。それでも、またワールドカップの舞台に立つ。

私は、そういうチームにひかれる。

お店でも、文章でも、何かを続けていると、「ここまでは来たけれど、もう一歩先には行けない」という感覚に出会うことがある。続けているからこそ、届かなさも見えてくる。メキシコ代表の歴史には、そういうものが重なって見える。

2026年大会の第1回紹介として、メキシコを取り上げたのは、開催国だからというだけではない。

メキシコ代表には、ワールドカップを見るうえで大事なものが詰まっているからである。

常連であることの強さ。

届かないことの悔しさ。

それでもまた出てくることのたくましさ。

ワールドカップ2026は、メキシコ対南アフリカから始まる。

その試合を見るとき、ただ「開催国の初戦」として見るだけでは少しもったいない。メキシコがこれまで何度もワールドカップに出てきたこと。二度の自国開催でベスト8まで進みながら、その先に届かなかったこと。ラファエル・マルケスやエルナンデスたちが積み重ねてきた記憶。そういうものを少しだけ頭に置いて見ると、開幕戦の見え方も変わる気がする。

強いのに、届かない国。

メキシコ代表の2026年は、その言葉を変える大会になるのだろうか。

まずは、開幕戦を楽しみに待ちたい。

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