『クロコーチ』は面白いドラマだった。長瀬智也の悪徳刑事は今見ても魅力的だし、三億円事件を警察内部の犯罪として描き直す発想にも引きこまれた。それでも、見終わった感想を一言でいえば「すっきりしない」になる。最終回で、物語が閉じないまま終わってしまうからだ。
そもそも三億円事件とは

1968年12月10日の朝、東京都府中市で、東芝府中工場の従業員に支給されるボーナス約3億円(正確には2億9430万7500円)を積んだ現金輸送車が奪われた。
犯人は白バイ警官になりすまし、「この車にダイナマイトが仕掛けられている」と言って行員たちを車から離れさせた。車の下で発炎筒を焚いて爆発を装い、その隙に輸送車ごと走り去った。この間、わずか3分ほどである。誰も傷つけていないので、法律上は強盗ではなく窃盗にあたる。
警察は延べ17万人を超える捜査員を投入したが、犯人は捕まらなかった。1975年12月10日に公訴時効が成立し、事件は未解決のまま終わっている。この事件をきっかけに、給料の銀行振込や、警備会社による現金輸送が広まったとも言われる。
ドラマはこの事件に「一つの仮説」を立てた
ドラマ版『クロコーチ』は、2013年の秋にTBSの金曜ドラマ枠で全10話放送された。
主人公の黒河内圭太(長瀬智也)は、神奈川県警捜査二課の警部補だ。政治家の弱みを握って金を取り、犯罪のもみ消しも平気でやる。そんな男が、三億円事件の真相を追っている。ドラマが出した答えは、奪われた金が警察内部の秘密結社「桜吹雪会」の元手になった、というものだった。

普通のドラマなら最後に「この物語はフィクションです」と出るところを、このドラマは「このドラマは一つの仮説である」と出していた。それくらい本気で、実在の事件に踏み込んでいた。
もともと長瀬智也のドラマは好きだった。賄賂を受け取りながら「せーいかーい!」とうそぶく黒河内は、善人でも単純な悪人でもない。毎週この男を追いかけるのが楽しかった。
剛力彩芽は、やっぱりコメディで見たい

このドラマを見た理由はもう一つある。僕の推しである剛力彩芽が、相棒の清家真代を演じていたからだ。
ただ、正直に書くと、このドラマの剛力彩芽はいまいちだった。推しはシリアスなドラマより、コメディをやらせたほうが断然かわいく映る。東大出のキャリア刑事という役柄自体は悪くないのに、画面の中の彼女に、いつもの魅力を探してしまった。推しだからこそ、見たい顔がはっきりしているのだと思う。
笑っている剛力彩芽はやはりかわいい!!
最終回、沢渡と高橋はどこへ消えたのか


最終話のサブタイトルは「完結〜三億円燃ゆ」。三億円事件の全容を知る元警察官の高橋(森本レオ)と、黒河内の宿敵・沢渡一成(渡部篤郎)の二人に、物語は決着をつけるはずだった。
自らの立場に疲れた高橋は警察に自首し、沢渡もまた逮捕される。しかし、拘留されていたはずの二人は、いつの間にかいなくなってしまう。後日、面会に訪れた黒河内は、誰もいない留置所を前に「ここにはもういない・・・いや、どこにもか・・・」とつぶやく。
ドラマはそこで終わる。
二人がどうなったのかは、いくつかに読める。
- 知りすぎた二人を、警察組織の奥にいる誰かが消した
- 黒河内が、画面に映らないところで自分の手で始末をつけた
- 続きを作る余地を残しておいた
どれもありえるし、どれにも決め手がない。そういうふうに作ってある。
「余韻」とは呼びたくない
この終わり方を「余韻がある」「組織の闇は暴ききれないという苦さが残る」と評価する見方もある。白状すると、僕も以前はそう書いた。
けれど今は、あれは余韻ではなく、閉じられなかっただけだと思う。
理由は単純で、放送当時、原作漫画はまだ連載中だった。終わっていない物語の結末を、ドラマが勝手に決めるわけにはいかない。事情は理解できる。
それでも、映画なら2時間の宙づりも一つの味として受け止められる。1クール10話、毎週金曜の夜に付き合ってきた連ドラで、最後の最後がすっきりしないのは、やっぱり気持ちが悪い。積み上げてきた分だけ、着地を見せてほしかった。
原作漫画はちゃんと終わっている

原作は、リチャード・ウー(長崎尚志)原作、コウノコウジ作画の同名漫画だ。『週刊漫画ゴラク』で連載され、2018年に全23巻で完結した。
ドラマとの違いは大きい。
- 清家が男性。 原作の清家は清家真吾という男性の管理官で、黒河内の内偵を命じられて彼に同行する。剛力彩芽の清家は、ドラマで作られた人物だ。
- 三億円事件は入口にすぎない。 ドラマは10話を三億円事件と桜吹雪会に絞っている。原作はそのあとも、警察庁長官銃撃事件をモデルにした話や、別の秘密結社をめぐる話へと続いていく。
- 三億円の実行犯が違う。 ドラマでは高橋が事件の当事者として描かれるが、原作では別の人物が実行犯である。
いちばん違うのが終わり方だ。原作の最後で、沢渡は与党総裁の座をつかみ、総理大臣就任を目前にしている。そして自分に敵対してきた黒河内、清家ら8人を県警本部に呼び集め、40年にわたる自分の犯罪を語り始める。怪物はその場で最期を迎え、居合わせた者たちはある覚悟を迫られる。最後のページの黒河内は、海外でくつろいでいるような姿で物語を終える。
細かくは書かないが、少なくとも原作には「ここで終わった」という手応えがある。ドラマで消えた沢渡に、原作はきちんと決着をつけた。
それでも、また見たくなる
結末には不満が残る。それでも『クロコーチ』を思い出すと、黒河内の薄ら笑いと、沢渡の表情を変えない不気味さが先に浮かぶ。二人が向かい合う場面の緊張感は、10話を通して最後まで落ちなかった。
だからこそ、最後にもう一歩踏み込んでほしかった。ドラマで止まっている人には、原作の最終巻まで読むことをすすめたい。もやもやの答えは、そこにある。

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