高林陽一– tag –
8ミリや16ミリを用いた実験的な自主制作映画からキャリアをスタートさせ、「映像の魔術師」とも称された日本映画界における孤高の映像作家、高林陽一。商業主義とは明確に一線を画し、ATG(日本アート・シアター・ギルド)を中心とした活動において、彼の研ぎ澄まされた私小説的な美意識は特異な光を放ち続けた。
その映像手腕が商業映画の枠組みで鮮烈な化学反応を起こしたのが、1975年の『本陣殺人事件』である。市川崑監督の『犬神家の一族』に先駆けて横溝正史ブームの火付け役となった本作において、彼は中尾彬にジーンズ姿でヒッピー然とした金田一耕助を演じさせるという斬新なアプローチを提示した。日本の古い因習が渦巻く閉鎖空間を、計算し尽くされた構図と前衛的なカッティング、そして鮮烈な色彩感覚によって切り取ったその映像美は、市川作品のポップな様式美とは異なる、ねっとりとした土着的な情念と幻想性をフィルムに焼き付けている。
さらに『金閣寺』(1976年)や谷崎潤一郎原作の『蔵の中』(1981年)などに見られる、退廃的でエロティックな空気感や、京都という土地の底に潜む魔性を定着させる演出力は他の追随を許さない。本タグでは、定型化されたドラマツルギーを拒絶し、あくまで「映像そのものが語る叙情と官能」を追求し続けた高林作品の深淵を覗き込む。インディペンデント精神を貫き通したこの異端の監督がいかにして文学的エッセンスを映像的快楽へと変換したのか、その独自の美学を深く考察していく。