田村高廣– tag –
日本映画史に燦然と輝く剣戟スター・阪東妻三郎を父に持ちながら、親譲りの豪快な立ち回りではなく、静謐な知性と深い包容力で銀幕に確固たる居場所を築き上げた名優、田村高廣。田村三兄弟の長男として知られる彼は、派手な身振りや声高な主張に頼ることなく、ふとした佇まいや視線のわずかな揺らぎだけで、人間の内面に抱えた哀愁や葛藤を雄弁に語りかける稀有な表現者であった。
彼の知的で誠実なパブリックイメージが最も鮮烈にスクリーンに刻まれたのは、山本薩夫監督の映画版『白い巨塔』(1966年)における里見医師役であろう。権力闘争に背を向け、ひたすらに患者と向き合う実直な姿は、彼の持つ揺るぎない品格と見事に重なり合った。一方で、勝新太郎とタッグを組んだ『兵隊やくざ』シリーズ(1965年〜)におけるインテリの有田上等兵役では、野性味あふれる大宮(勝)の暴走を理知的にコントロールしつつ、理不尽な軍隊組織の暴力に静かな怒りを燃やすという絶妙なバディの化学反応を生み出し、泥臭い世界に確かなヒューマニズムを提示してみせた。
本タグでは、小栗康平監督の『泥の河』(1981年)で見せた市井の父親の疲弊と優しさなど、名門の重圧を静かに跳ね除け、独自のリアリズムとペーソスを追求した田村の演技メソッドを深掘りする。激動の昭和を映し出した作品群のなかで、あの温かくもどこか虚無感を湛えた深く落ち着いた声が、作品の演出にいかなる格調と説得力をもたらしたのか、その静かなる熱情の本質に迫っていく。