金田一耕助– tag –
日本の探偵小説界を代表する国民的名探偵、金田一耕助。横溝正史の筆によって誕生したこの青年は、よれよれの絣の着物に袴、お釜帽に下駄という風体で、思考が行き詰まると雀の巣のような頭をボリボリと掻きむしり、フケを飛ばす。エドガー・アラン・ポーが生み出したオーギュスト・デュパンを端緒とする西洋の「論理的で特権的な超人」たる名探偵像とは対極に位置する、どこか頼りなく、時に連続殺人を未然に防げない己の無力さに深く苦悩する極めて人間臭いキャラクターである。
彼の本質的な魅力は、単なる謎解きマシーンにとどまらない。閉鎖的な共同体の因習や、旧家の血の業といったドロドロとした情念の渦に身を投じ、悲劇の因果を解きほぐしていく「鎮魂者」としての役割を担っている点にこそ、日本人の琴線に触れる哀愁がある。
また、金田一耕助は日本映像史における巨大なアイコンでもある。市川崑監督と石坂浩二のタッグが決定づけた軽やかな憂いとスタイリッシュな美学、テレビシリーズで古谷一行が魅せた親しみやすさ、さらには渥美清の漂泊感や、中尾彬(『本陣殺人事件』)が放ったヒッピー然とした異物感など、演じる俳優と監督の解釈によって実に多種多様な顔を見せてきた。
本タグでは、『獄門島』や『悪霊島』など、瀬戸内の海や島々が舞台となる作品群に顕著な、日本の原風景に潜む土着的な恐怖空間の構築手法にも触れながら、歴代の金田一俳優たちがスクリーンやブラウン管に刻み込んだ独自のアプローチを比較・考察する。テキストから立ち上る和風ゴシックの狂気が、いかにして各時代の映像表現へと変換されていったのか、その演出の変遷と特質を深く掘り下げていく。