中尾彬– tag –
独特の野太い低音と凄みのある眼光で、長きにわたり日本映画・ドラマ界に唯一無二の重厚感をもたらした名優、中尾彬。晩年はバラエティ番組等における洒脱な文化人としての顔が広く親しまれたが、役者としての彼の真骨頂は、人間の内に潜む泥臭い欲望や、権力者の冷酷なエゴを体現する底知れぬ「毒」の表現にこそある。
日活出身であり、劇団民藝で培った確かな演技力を持つ彼は、1970年代の先鋭的な日本映画群において特異な存在感を放った。中でも高林陽一監督のATG(日本アート・シアター・ギルド)作品『本陣殺人事件』(1975年)における、ジーンズ姿でヒッピー然とした金田一耕助役は、後年の定型化されたイメージを痛烈に破壊する異物感と虚無的な色気を漂わせており、日本映画史における重要なミュータントとして語り継がれている。
後年は平成ゴジラシリーズにおけるGフォースの麻生司令官や、北野武監督『アウトレイジ ビヨンド』(2012年)における老獪なヤクザの幹部など、ただそこに座しているだけで画面の空気を制圧してしまう圧倒的なカリスマ性で作品の屋台骨を支え続けた。本タグでは、彼が演じた悪役や権威的なキャラクターの奥底に滲む人間臭い滑稽さやペーソスにも触れながら、あの響き渡る重低音が映像作品の演出においていかなる緊張感と説得力をもたらしていたのかを深く考察していく。